研究者インタビュー
クローナル増幅を用いたヒト造血幹細胞の遺伝子編集技術の確立
2023年度 化血研若手研究奨励助成
研究内容について教えてください
造血幹細胞は、さまざまな血液細胞へ分化する「おおもと」の細胞で、白血病などの難治性血液疾患に対して行われる造血幹細胞移植に用いられています。しかし、造血幹細胞は非常に数が少なく、自在に増幅する技術の確立が求められてきました。これまで、生体外での造血幹細胞の維持には、血清アルブミンとサイトカインを組み合わせた培地が不可欠とされてきましたが、造血幹細胞の増幅作用は限定的でした。そこで私たちは、アルブミンとサイトカインを、高分子ポリマーと特定の化合物でそれぞれ置換した培地を用いて、ヒト造血幹細胞の長期増幅を可能とする新規の培養技術を開発しました。この方法により、1か月間の長期培養が可能となり、また既存の培養技術と比較して、造血幹細胞が選択的に増幅されることが示唆されました。
今回の研究では、この技術を用いてクローナルな増幅を行うことを目指します。
研究者を目指すきっかけ、現在の分野へ進むこととなった経緯を教えてください
学生時代および研修医時代に、造血幹細胞移植などダイナミックな治療を行う血液内科に魅かれ、血液内科医を志すようになりました。血液内科の臨床は非常に奥が深く、診療技術を磨くことに熱意を注いできました。しかし、現代の医療では治すことができない患者さんがいることもまた事実です。そのような場面を目の当たりにし、臨床医とはまた違う立場から、自分も医学の進歩に貢献したいと考え、血液領域の研究にも足を踏み入れるようになりました。
大学院時代は中島秀明先生(現横浜市大教授)のもと、iPS細胞を利用した研究を行い、大学院卒業後は山崎聡先生(現東大医科学研究所教授)のご指導の下、造血幹細胞の増幅に関する研究に従事してまいりました。基礎研究は、結果が出るまでの時間が長く、また日々遅くまで頑張っても必ずしも報われるわけではありません。心が折れそうになることは何度もありましたが、根気強く伴走してくださった先生方には深く感謝しています。
これまでのキャリアで印象に残っている経験を教えてください
血液内科は、化学療法や造血幹細胞移植が治療のメインになるため、比較的長期の入院を要する患者さんが多い診療科です。患者さんが長い入院生活を終え、社会復帰し、学業あるいは仕事を立派にこなす姿をみることは、何より喜びです。彼ら/彼女らから、私自身も大きな勇気をもらいますし、それが新たなモチベーションを生み出します。
この領域は、進歩も早く、新しい治療法がどんどん使えるようになることも魅力の1つです。最近使用できるようになったCAR-T細胞療法も、他分野に先駆けて血液内科領域において実臨床で広く活用されつつあります。私も血液内科医となって15年が経過しますが、その間にも多くの医学の進歩をすでに経験することができました。そしてこれからもそのような経験ができると思うと、わくわくします。
今後の応募者へのアドバイス、若手研究者へのエールをお願いします
私自身も修行中の身ですので、あまり気の利いたことは言えませんが、臨床医をしながら研究も行う医師も一定数は必要だと考えています。医療の現場感覚を持つことは、研究テーマの探索にも役立つと思います。一方で、研究に割く時間は限られ、また現場を知っているからこそ、「これは現実的ではない」とアイデアに制限が生まれてしまうこともあるかもしれません。私は、多面的に物事を見ることができるよう、様々なバックグラウンドを持った研究者・医師との対話を心掛けるようにしています。
研究を行うことで、臨床への還元もあると感じていますし、両輪でいくからこそ生まれるモチベーションもあると感じています。研究は苦しいことも多いですが、臨床とは異なる魅力もあるので、それを感じていただき、創造性やチャレンジ精神を発揮する場としていただくと、結果的に臨床も研究も頑張れるのかなと思っています。
将来の夢や、研究を発展させるビジョンについて教えてください
自分が研究した内容を、直接患者さんへ還元できたら一番ですが、なかなかそうはならないと思いますので、次世代の研究者への橋渡しに少しでもなれたらと思っています。私自身も過去の知見の上に成り立つ研究をしていますし、自分の研究も、これから研究する方々の礎となることができれば、大変喜ばしいことだと感じます。
理想的には、目の前の患者さんに向き合いつつ、そこから生まれた臨床的課題を解決できるような研究を行っていきたいと考えています。そのためには乗り越えなければならない課題も多くあるのですが、1つ1つ実現に近づくことができればと思います。
Profile
2023年度 化血研若手研究奨励助成
櫻井 政寿
慶應義塾大学
医学部
専任講師