研究者インタビュー

化血研が助成させていただいた研究者の方々の研究内容、これまでの経験やエピソード、将来の夢などをご紹介します。

食物アレルギーにおける新規腸管好酸球サブセットの機能解析とその応用

2023年度 化血研若手研究奨励助成

研究内容について教えてください

 私は好酸球と呼ばれる白血球の役割について研究しています。最近では、私たちの体で起きている免疫システムを分かりやすくマンガ化した「はたらく細胞」を読んで好酸球を知った方もいるでしょう。二股の槍を操る可愛らしいキャラクターとして描かれています。好酸球は寄生虫から私たちの体を守る大切な細胞です。しかし、細菌やウイルスと違い、多くの寄生虫は私たちと同じ多細胞生物であるため、好酸球がアレルギーを引き起こす物質へ過剰に反応をすることで、私たちの体を傷つけるアレルギー疾患を起こします。好酸球はアレルギー疾患では私たちの体を傷つける悪玉細胞にもなってしまうのです。こうした、「ジキル博士とハイド氏」を想像させるような二面性も、好酸球の魅力だと思います。

 腸管には多くの好酸球が存在していますが、その役割は良く分かっていませんでした。私は米国のMarco Colonna先生のラボへ留学した際に、腸管に存在する好酸球の分化や機能に関する研究をおこないました。その結果、小腸に存在する一部の好酸球がAHRと呼ばれる環境センサー分子を介して分化し、寄生虫感染において免疫抑制効果を持つことを見つけました。今回の採択テーマでは、アレルギーにおける腸管好酸球の役割に注目し、好酸球を利用したアレルギー治療開発の基礎研究をおこないます。

研究者を目指すきっかけ、現在の分野へ進むこととなった経緯を教えてください

 物心がつく前から図書館が大好きで、生物や恐竜、人体の図鑑を見ていたそうです。中学~高校時代には、オカルト雑誌「ムー」や米国ドラマ「X-ファイル」が大好きで、未知のモノに対する強い畏怖と好奇心を掻き立てられました。また、親族には学者肌の教師が多く、校長先生をしていたおじいさんの書斎には天井までたくさんの資料や本が積み重なっていました。古書の香りが立ち込める書斎で仕事をしている姿が格好良く見えました。学問からサブカルまで造詣が深く、親族が集まると酒を呑みながら様々なトピックについて議論したことを覚えています。こうした環境が学者に対する漠然としたあこがれを醸成していたのかも知れません。また、自由に学ぶ環境をくれた両親に感謝しています。留学中に亡くなりましたが、いつも明るく前向きに背中を押してくれた母には感謝してもしきれません。

 山形大学理学部に進学し、免疫系の進化に興味を持ちました。所属研究室の半澤直人先生の紹介で、原始的な無顎類の免疫研究を推進していた総研大(その後、北海道大学)・笠原正典先生のラボに参加しました。未開拓の研究フィールドで、新規遺伝子をたくさん見つけることができました。北海道大学・瀬谷司先生のラボへポスドクとして就職し、哺乳類の自然免疫研究へ転向しました。自然免疫系は進化的に保存されている生体防御系なので、巨視的に免疫システムを捉えられると思いました。幸運にも、自然免疫研究を世界的にリードするMarco Colonna先生のラボへ留学する機会を頂きました。現在、鹿児島大学・原博満先生のラボに採用して頂き、これまでインプットした知識や経験をアウトプットしながら、自分らしい自然免疫研究を展開できるように試行錯誤しています。

「コロナ研のメンバーが開いてくれた送別会」

これまでのキャリアで印象に残っている経験を教えてください

 一番印象に残っているのは、瀬谷研でのポスドク生活です。進化学研究から最新の免疫学研究へ転向したものの、研究に必要な知識や実験技術が全く無いため、全て一から学ぶ必要がありました。ポスドクと言いながら、研究室に入りたての学部生と同じようなものでした。心身ともにしんどい状態で、我武者羅に勉強して、実験したことを覚えています。瀬谷先生やラボの友人達の助けを貰いながら、何とか一人で実験をこなせるようになりました。留学した際、実験で苦労したことはほとんどありませんでした。この時の経験は一生忘れられません。

 また、米国留学も大きな経験になりました。留学先のWashington University School of Medicine in St. Louisは免疫学研究が盛んで、Kenneth Murphy先生やWayne Yokoyama先生など、多くの著名な免疫学者がおられました。ラボミーティングや合同セミナーで良い研究が作られていく過程を見れたことはとても勉強になりました。また、多国籍のラボメンバーに囲まれ、異文化交流をすることで、日本という国を見直す機会にもなりました。留学生活で多くの友人たちが出来たことは自分の財産です。辛いことも沢山ありましたが、研究留学を考えている方々は勇気を持ってトライして欲しいです。

「留学中、行きつけのお店で販売されたシグネチャー・サンドイッチ」

今後の応募者へのアドバイス、若手研究者へのエールをお願いします

 まだ修行中の身なので、応募者へのアドバイスや若手研究者へのエールの代わりに、学生・ポスドクだった頃から自分なりに取り組んでいることをシェアさせて頂きたいと思います。御笑覧頂ければ幸いです。

 一つ目は、良く考えることです。研究だけではなく、メンターや先生方の言葉を自分なりに解釈することで、その人の思考や思想を吸収したいと考えています。

 二つ目は、勉強し続けることです。研究以外のことで時間を取られても、自学自習し、様々な機会を通じて、幅広く情報収集する努力を続けています。

 三つ目は、人と話すことです。他分野の研究者から飲み屋の常連客まで、人種・職業を問わずにいろいろな人と話して視野と人脈を広げたいと思っています。

 四つ目は、孤独になることです。冷静に自分の研究を見直したり、研究へのモチベーションを自分で生み出すために、時には孤独になることも必要だと思います。

 五つ目は受け売りですが、限界まで頑張ることです。心と体が壊れたり、無職になりそうなら、そこが自分の限界なので撤退することも必要だと思っています。

 不安定な職業柄、今も将来への不安は尽きません。ポスドク時代から愛読している「憂鬱でなければ、仕事じゃない(見城徹/藤田晋・著)」には、「楽な仕事など、大した成果は得られない。憂鬱こそが、黄金を生む。」という一文があります。良い研究や人生の決断には、必ず大きな不安要素が付きまとっていると思います。振り返ると、リスクのある道を進んだ方が自分の成長に繋がり、新しいチャンスにも巡り合えてきたような気がします。研究に対するモチベーションを大切にしながら、これからも上手に憂鬱や不安とお付き合いしたいと思います。

将来の夢や、研究を発展させるビジョンについて教えてください

 現在、腸管好酸球を中心に研究しています。新しい研究分野であることもあり、日々のデータに一喜一憂しながら、一人前の学者として自立できるように奮闘しています。また、大学は教育の場でもあることから、授業や研究指導にも力を入れています。少子化も相まって、地方大学では大学院生の確保も大きな問題になっています。そのため、多様な価値観や人生設計を持った学生さんや留学生が在籍しやすい相利共生(お互いに利益のある共生関係)できるラボの仕組み作りにも取り組んでいきたいです。

 将来の夢は、小さくても面白い研究を創ることです。好酸球研究や並行して進めている研究が、その入り口になれるように頑張りたいです。欲を言えば、Robert A. Good先生ように研究対象の究極要因(進化学的意義)を解明する研究も融合し、多面的に免疫システムを捉えられる免疫学者を目指したいです。

「鹿児島大学 感染防御学講座免疫学分野のメンバーと」

Profile

2023年度 化血研若手研究奨励助成
笠松 純

鹿児島大学大学院医歯学総合研究科
講師

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