研究者インタビュー

化血研が助成させていただいた研究者の方々の研究内容、これまでの経験やエピソード、将来の夢などをご紹介します。

大規模1細胞RNA-seqによる多発性骨髄腫の髄外病変の形成過程の解明と治療標的の探索

2023年度 化血研若手研究奨励助成

研究内容について教えてください

 今回の研究課題は、1細胞RNA-seqという技術を用いて、血液がんの1つである多発性骨髄腫が進展していく過程を明らかにし、その治療標的を探索することが目的です。1細胞RNA-seqは、細胞1つ1つの遺伝子発現プロファイルを取得することができる技術で、それに基づいて細胞の種類の同定もできる非常に有用な解析方法です。ただし、その実験コストは1検体につき数十万円かかり、多数の検体を取り扱うのは非常に困難でした。ところが、最近では国内外で多数の研究グループが1細胞RNA-seq解析を行い、そのデータセットを公共データベースに保管するようになってきました。申請者らが研究対象としている多発性骨髄腫に関しても、公共データベース上に100症例を超える1細胞RNA-seqデータが保管されていたことから、それらのデータを取得し、再活用することで、大規模な多発性骨髄腫の1細胞RNA-seqのデータセットを構築が可能になりました。そのデータセットを用いて、多発性骨髄腫が進展していく過程を詳細に解析し、治療標的となる細胞や分子の探索を行っています。

研究者を目指すきっかけ、現在の分野へ進むこととなった経緯を教えてください

 私自身は、学部の4年生の時に研究室に配属される段階では全く研究者志望ではありませんでした。大学の研究室は私が配属された段階で設立から2年目で、ラボ内の先輩も少なく、実験技術も限られていたことから、教授の知り合いの国立がんセンター(今は、“国立がん研究センター”なんですけど、その当時は“国立がんセンター”でした)の先生のところに分子生物学を学ぶために1年間の予定で出向することになりました。今は令和の世ですが、当時はまだ昭和な感じも残っており、なかなか厳しい感じのラボ生活だったような気がするのですが、たまたま、いただいた実験テーマが良く、学部生だったにもかかわらず、成果を出し、学会発表することができました。もう少し頑張ることで論文化もできそうだったため、1年限定であった出向期間が延長され、最終的に博士課程修了時まで、がんセンターで研究を続けることになりました。そのころには、研究は面白いなと思うようになり、学位取得後、海外留学で、シンガポール、アメリカと過ごした後、古巣の国立がん研究センターでポジションがあるということで帰国することができました。今でもその流れで研究を続けているという感じです。

これまでのキャリアで印象に残っている経験を教えてください

 博士課程を修了できそうになった段階で、次のポジションとして海外で働いてみることにしました。当時は、ビデオ通話なども普及していなかったため、海外のラボのホームページを見て、そこに記載されているEメールアドレスにメールをして、実際にラボを訪問してインタビューを受けることが一般的でした。私は研究テーマにそれほどこだわりがあって研究をしていたわけではなかったので、とりあえず、格好が良かったボストンにあるいくつかのラボにメールしてみました。そのうち、返事をくれたラボの先生と面接をして順調に留学先が決まりました。実際に行く、半年くらい前になってビザの申請等の連絡をしたら、そのラボ自体がシンガポールの研究所に引き抜かれてしまって、もう少しでボストンのラボは閉じるから、アメリカじゃなくて、シンガポールの方に研究所に行けと言われてしまいました。折角の海外留学だったので、アジアではなくアメリカに行きたかったのですが、シンガポールは日本からも近く非常に発展した国でしたので、とても快適な留学生活でした。今でもシンガポールの人達との付き合いは続いています。ちなみに、その数年後に、シンガポールのラボを閉じるのでアメリカに帰るということで、気温が32℃のシンガポールから-20℃のアメリカに引っ越しをするという経験もしました。

「留学先のMcKeonラボのメンバーと」

今後の応募者へのアドバイス、若手研究者へのエールをお願いします

 研究技術の発展によって、研究分野の垣根が低くなってきていると思います。そのためか、生物医学研究においても、AIなどの計算科学技術の導入が必須であったりと、研究者1人では、とてもカバーできない量の知識や技術が求められることが多くなってきています。最近は多少改善されているのかもしれませんが、日本人は、欧米のラボと比較すると共同研究が下手な印象です(個人的感想です)。通常参加している学会なども小さな学会・研究会では近い分野の研究者が集まるだけで、大規模な学会ではネットワークを築くには人間関係が希薄になりがちです。異分野融合は、言うは易く行うは難しですが、これからの研究活動を担っていく若手研究者の方々には必須になるはずです。私自身もそれほどうまくできているわけではないのですが、研究室にこもって実験や解析をするだけでなく、目的をあまり定めずに、全く違う分野の学会に参加してみたりするのもありです。時間的・精神的な余裕も面白い研究を進めていく上では、大事なのかもしれません。私は日々、事務書類に追われているのですけど。

「2022年分子生物学会年会の企業ブースで1等を当てて等身大パネルをゲット」

将来の夢や、研究を発展させるビジョンについて教えてください

 実際の研究面においては長い間、がん研究に携わってきておりますので、がんに対して新しい治療標的となる分子や細胞を見つけたいと思っています。すでに、がん細胞自体を攻撃する薬剤は多数、開発されており、あまり発見の余地は少ないと思っているのですが、がん細胞を支持するがん微小環境内の細胞を標的とするなど、がんに対して間接的に作用する標的はまだ、重要なものが残されているのではと考えています。今回の研究課題は1細胞RNA-seq技術に基づくものですが、新しい解析技術を用いることで、これまでに見えてこなかったものが、分かるかもと期待し、日々研究を続けています。研究室的な将来のビジョンとしては、私自身が若手研究者を名乗るには年を取りすぎ、中堅と呼ばれる立場になってきたせいか、ラボに参加してくれている学生さんに研究の面白さや楽しさを少しでも伝えることができれば、良いのかなと思い、日々叱咤激励している毎日です。

「国立がん研究センター研究所 病態情報学ユニットのメンバーと」

Profile

2023年度 化血研若手研究奨励助成
山本 雄介

国立がん研究センター研究所
独立ユニット長

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