研究者インタビュー

化血研が助成させていただいた研究者の方々の研究内容、これまでの経験やエピソード、将来の夢などをご紹介します。

本邦に特徴的な CMV 血症・眼感染症眼内液由来 CMV ゲノム解析と抗 CMV 免疫の解明

2022年度 化血研研究助成

研究内容について教えてください

 サイトメガロウイルス(CMV)は近年、あらゆる免疫状態で多様な眼炎症性疾患の原因となることが明らかになり、現在では、本邦で報告される感染性ぶどう膜炎の最多の原因であると知られています。感染性ぶどう膜炎とは、体に感染症が起こることによって、血管膜であるぶどう膜を通して眼に炎症が波及する病態の総称です。CMVは日本人の成人の約90%の人が潜伏感染していますが、様々な治療や、移植をおこなう際に免疫抑制をかけるなどしてImmunocompromised(免疫不全状態)になったときに、顔を出してきます。そしてそのウイルスが眼の中に入ってくると、難治性で視力予後は不良となるのですが、発症メカニズムや病態はよくわかっていません。一方で、明らかな免疫低下のみられないCMV前部ぶどう膜炎は東アジアで高頻度にみられることから、ウイルス・ホストの遺伝的背景の関与が示唆されています。

 近年、欧米の研究によりCMVはヘルペスウイルスの中で最も多様なウイルスであることが明らかになっていますが、アジア人由来のCMVゲノム情報はわずかです。本研究課題はアジア人由来のCMVゲノムの特徴を明らかにするとともに、CMV関連眼疾患に関わるウイルス・ホスト因子や病態を解明し、発症リスクや予後予測、難治疾患の治療戦略の発展に寄与するものです。

研究者を目指すきっかけ、現在の分野へ進むこととなった経緯を教えてください

 まず、眼科についてですが、救急の現場や他の診療科でも共通して言えるのは、眼にケガをした患者さんが来た場合には必ず眼科医が呼ばれるということです。このことから、眼科は非常にスペシャリストであると考えています。また、どの患者さんも見えなくなって初めて「見えること」の重要さに気づかれるのですが、手術をおこなって眼帯を取った時に、見えることの喜びをダイレクトに私達へ伝えてくれるということも眼科の魅力の一つだと感じています。

 研修医の2年間を終えた後にどのような進路へ進むか選択する場面がありました。研修医の時にぶどう膜炎で失明する患者さんをみて、何とかしたいと思ったことをきっかけに大学院博士課程へ進学しました。大学院へ進学するとなった時に、行き先は自由に選んで良いと当時の教授に言われたので、学生の時の免疫の講義が面白かったことから、免疫を勉強したいと思い生体防御医学研究所・野本亀久雄先生が主催している研究室の門をたたきました。素晴らしい先輩と仲間に恵まれながら4年間じっくり研究に取り組んだことは、今の自分の基礎になっています。

これまでのキャリアで印象に残っている経験を教えてください

 大学院時代は「感染と自己免疫疾患」をテーマに、細菌感染によって臓器特異的免疫トレランスが破綻するメカニズムを研究しました。細菌やウイルスが侵入してきたときに、本来は自己を守る仕組みになっているはずの免疫系が、自分の正常な細胞や組織まで犠牲にしてしまうのが「自己免疫疾患」です。私はリステリア菌を腎臓に感染させたあとの自己免疫がどのように起こるのかを、切片を免疫染色して観察したり、細胞をとってきて自己反応性Tリンパ球が誘導されるかをフローサイトメトリーで解析したりするなど、当時盛んになっていた免疫細胞生物学の手法を用いて研究していました。大学院では眼を扱うことがなかったのですが、その後3年間留学したスケペンス眼研究所では、免疫特権を持つ眼の免疫システムについて深く解析することができました。

 留学は私がアカデミアにすすむ大きなきっかけになりました。博士課程で4年間免疫の基礎研究に取り組み、さらに留学先で「眼の免疫」という当時日本で研究している人がいないようなテーマの研究をおこなったことは、帰国後に自分の「強み」となったと思います。

娘がアメリカで生まれたときにラボのメンバーがお祝いに駆けつけました

今後の応募者へのアドバイス、若手研究者へのエールをお願いします

 応募される皆様はレベルの高い方ばかりだと思います。1回の応募ではなかなか通らないかもしれませんが、諦めずに研究と応募を続けていただきたいです。

 私の研究の根底には免疫学の基礎があり、眼科では臨床の研究者が少なかったことも功を奏して、「眼の免疫学」は自分のアイデンティティとなりました。独壇場となるようなテーマを見つけることができたと思います。みんながやるようなテーマを一緒に取り組むことも大事かもしれませんが、そういう研究もやりつつ、自分だけの世界を持つことができるともっといいんじゃないかと思います。

将来の夢や、研究を発展させるビジョンについて教えてください

 最近はシングルセル解析など新たな技術が開発されるようになり、ヒト検体の解析手法が充実してきました。Physician Scientistとして、臨床現場で患者さん達を診ることで、いま何が問題になっているのか?また、何が求められているのか?を日々考えながら、基礎研究へブリッジしていくことは非常に重要です。臨床教室の強みを活かして、患者検体解析とそれに根ざした動物実験を両立させた研究を行い、より良い眼炎症疾患の治療法に繋げたいと願っています。

Profile

2022年度 化血研研究助成
園田 康平

九州大学大学院医学研究院 眼科学
教授

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