研究者インタビュー

化血研が助成させていただいた研究者の方々の研究内容、これまでの経験やエピソード、将来の夢などをご紹介します。

TREM2 を介した結核菌の許容的 Mφ の誘導と持続感染機構の解明

2022年度 化血研研究助成

研究内容について教えてください

 結核は結核菌による感染症で、毎年150万もの命が結核で失われます。結核菌に一度感染すると、我々はこれを排除することはできず、死ぬまでキャリアとして生きていくことになります。世界人口の1/4が結核菌の保菌者といわれており、結核を根治させる薬剤や有効なワクチンは未だに存在しておりません。私は、結核菌の病原性に関わる特殊な細胞壁脂質成分に興味をもち、それを認識する宿主受容体を探索し、同定しました。結核菌は宿主のマクロファージ内に慢性的に潜伏感染する細菌ですが、我々はその病原性の脂質がこの受容体に作用することで結核菌の長期潜伏感染を可能にしているのではという仮説に至り、それを証明すべく本研究を着想しました。

研究者を目指すきっかけ、現在の分野へ進むこととなった経緯を教えてください

 元々農学部の出身で、修士課程まで進み、放線菌の核酸修飾酵素の遺伝子制御の研究を行っていました。修士課程修了後は、京都の宇治市にあるユニチカという会社に就職し、生化学研究部で臨床検査薬用の酵素の探索を行っていました。具体的にいうと、近隣の土壌から採取した菌を培養し、目的の酵素活性をもつものを探すという作業をひたすら行なっていました。しかし、バブルが崩壊して研究部が解体になったことで、会社の力になれなかった自分に失望し、社会の役に立つ能力を身につけたいという思いから博士課程への進学を決めました。当時27歳でしたが、どうせ学び直すなら一からと考え、興味をもっていた免疫学の研究室を選びました。

 免疫に興味をもったきっかけは、当時、立花隆という作家の著書をよく読んでおり、その中の「精神と物資」という本で免疫学に興味を引かれたからです。この本は、抗体の多様性の謎を解明して日本人初のノーベル医学生理学賞を受賞した利根川進先生のインタビュー記事で、利根川氏の発見した抗体遺伝子の再構成の仕組みとその意義に関してとても分かりやすく解説されていました。博士課程では、細胞や基礎医学に関する知識が何もないゼロからのスタートでしたが、生まれて初めて勉強することが楽しいと思えた大学院生活でした。知識が増え、研究力が鍛えられるにつれ自信を取り戻し、基礎研究の素晴らしさや楽しさもわかったため、これを生涯の仕事にしたいと思うようになりました。

これまでのキャリアで印象に残っている経験を教えてください

 会社を退職して、九州大学生体防御医学研究所の野本亀久雄先生の教室で免疫の勉強を始めたのですが、この研究室では毎日が刺激的で、とても充実した日々を送ることができました。初めて本当の研究と研究者に触れたと実感できたのはここでした。特に驚いたのは、在籍している大学院生の研究に向き合う姿勢、意識レベルの高さでした。野本研究室では、複数の学生が自主的にゼミを立ち上げて勉強会を行なっていました。自身で研究テーマを立ち上げて研究を行なう先輩もおり、中には学会で座長を務めたり、コレスポンディングで原著論文を執筆したりする人もいました。とにかくとても活気があり、学生同士が研究人として互いを尊敬し、競うように勉強や研究に切磋琢磨していました。また、学生同士の仲もよく、よく酒を酌み交わし、様々な先輩とも一緒に遊ばせていただきました。その頃の青春を共にした多くの方が、今も教授として医学研究の分野で活躍をされています。学びの舎としてこれほど理想的な場所はなく、まだまだ遠く及ばないのですが、いつか自分もこういった研究室を作れたらと思っています。

今後の応募者へのアドバイス、若手研究者へのエールをお願いします

 他人にアドバイスするほど立派な研究者ではないし、私自身が日々迷いつつ手探りで研究を進めている状態なので、何をどう助言すべきかよく分かりません。ただ、迷った時や行き詰まった時は、成長のチャンスと思って沢山勉強をしてください。結局、十分なインプットがないとよいアウトプットはできない訳で、頼れるのは日々の勉強で得た知識のみです。私は勉強嫌いですが、プロである以上は避けて通れないので、そこは腹を決めて出来るだけ論文を読むよう務めております。若い時ほど自分の専門に囚われることなく、出来るだけ色々な論文を読んで知識を広げるよう努めることをお勧めします。自分がまだ知らないことを知るために勉強する意欲と、研究において未知の領域を切り拓こうとする冒険心は比例すると思っております。

 また、研究の成功には、実験の質も大切ですが、絶対的な量も必要です。これまでの経験から、私は研究の神様はいると考えており、その神様は公平で、ある閾値以上の努力(=仕事量)をこなした人にしか発見のチャンスをくれないのだと思っております。とはいえ、リラックスも必要です。人は何もしない時でも思考は続けているそうで、むしろそういう時にこそ良いアイデアが生まれるのだそうです。よく学び、よく遊べということなのかな。私自身、なかなかうまくできませんけどね。

将来の夢や、研究を発展させるビジョンについて教えてください

 不思議なことに、今までの研究生活でやることに困ったことがありません。自分が研究する中で、新しい発見や不思議なことが常に起こっていて、それを明らかにしたいという思いで日々の研究が進んでいます。研究の発展は常に考え、夢(妄想)も膨らませています。それがある意味、研究の原動力にもなる訳ですが、一方で、夢や希望に引っ張られないようにしたいとも思っております。ただ自然(Nature)に対して素直であろうと思っております。自然はまだまだ未知であり、人が行先を決められるようなものではありません。自然に対して素直であれば、行先は自然が教えてくれます。そこに向かって進むのが私の天命であり、それが研究のアイデンティディに繋がるのだと考えています。

Profile

2022年度 化血研研究助成
原 博満

鹿児島大学大学院 感染防御学講座
教授

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