研究者インタビュー

化血研が助成させていただいた研究者の方々の研究内容、これまでの経験やエピソード、将来の夢などをご紹介します。

敗血症性DICのデータ駆動型研究

2021年度 化血研研究助成

研究内容について教えてください

 敗血症に合併する播種性血管内凝固症候群(DIC)は、種々の基礎疾患による凝固活性化により全身の微小血管内に血栓が多発し、重症化すると多臓器の循環障害等を引き起こす、致死率の高い危険な病態です。

 本研究では、敗血症性DICの血栓形成における液性因子(凝固因子、線溶因子等)と細胞系因子(白血球、血小板、血管内皮等)を含めた「cell-based process of hemostasis」として総合的に病態を評価する血液診断ツールの開発を目的とします。

 具体的には、私が東大病院の矢冨先生らとの共同研究によって近年開発したインテリジェント画像活性細胞選抜法(intelligent image-activated cells sorting: iIACS)(Nitta et al, Cell, 2018)及びインテリジェント血小板凝集塊分類法(intelligent platelet aggregate classification: iPAC)(Zhou et al, eLife, 2020)を用いて、様々な感染症(敗血症、肺炎、尿路感染、カテーテル関連血流感染、COVID-19等)由来の敗血症性DICの発症・重症化リスクの評価、及び的確な治療薬選択に向けた抗菌薬・抗血栓療法の薬効評価法・治療モニタリング法の確立を目指します。

研究者を目指すきっかけ、ライフサイエンス分野へ進むこととなった経緯を教えてください

 物心ついたころから研究者になりたいと思っていました。実際に、小学校の文集には「将来の目標」の項目で「研究者になりたい」と回答していました。サイエンス全般に興味を持っていましたが、最初は物理学分野に進みました。

 マサチューセッツ工科大学(MIT)時代ではLIGOグループで重力波検出実験に取り組み、検出器が完成したので、新たな分野への挑戦ということで、物理的な知見を活かしてライフサイエンス分野に進出しました。おかげさまでLIGOは無事に重力波を検出し、グループのレイナー・ワイス、バリー・バリッシュ、キップ・ソーンの3名は2017年にノーベル物理学賞を受賞しました。

 現在でも、研究の基本は革新的技術の開発で、その技術をライフサイエンス分野に適用して、斬新な応用展開を行っています。今回の研究もその延長線上にあります。

これまでのキャリアで印象に残っている経験を教えてください

 2001年から合計15年間米国に留学、研究滞在していました。大学の学部時代をUC Berkeley;カリフォルニア大学バークレー校(物理学)で過ごし、大学院時代をMIT(物理学)で終え、Caltech:カリフォルニア工科大学(物理学)で研究滞在し、UC LA;カリフォルニア大学ロサンゼルス校(電気工学、生体医工学)でポスドクとリサーチサイエンティスト時代を過ごしました。

 まず、Berkeleyで行われていたニュートリノの研究がやりたかったこと、言語習得の観点からも早い渡航が良いだろうということで学部時代からの留学を決めました。学部時代に必要とされる勉強量は相当なものでした。UC LAでは複数のラボで研究をしていて、電気工学では分光技術やイメージング、生体医工学ではマイクロ流体工学や一細胞解析をおこなっていました。

 2012年に帰国して東京大学(化学)へ教授として着任し、新しい研究室の立ち上げを行いましたが、海外時代から一貫して「光」に関する研究を続けています。現在は、これまでに生み出してきた技術を応用し、医薬・食品・環境などの多岐にわたる異分野との共同研究を展開していますが、海外で多くの場所を移動し、また、多くの分野を経験したことで、斬新な発想や異分野融合的研究アプローチなどを自然と獲得することができたのだと思います。異なる分野で研究することは、新しい文化に触れて、研究手法のみならず多様な考え方を学ぶことができるので、貴重な経験でした。

ライフサイエンス分野に挑む若手研究者へのエールをお願いします

 これは私が小学校、中学校、高校などで一般講演する際に発言していることですが、「教科書を疑え、先生を疑え、親を疑え」です。特にライフサイエンス分野では習ってきたことが実は間違っていたということはよくあることです。大発見は、疑うことから始まります。

研究を発展させるビジョンについて教えてください

 私の研究室では、ルイ・パスツールの名言「Chance (serendipity) favors the prepared mind(偶然は心の準備が出来ている者を好む)」を実現する技術「Serendipity-Enabling Technologies」の創出を目的としています。

 具体的には、物理学・化学的なアプローチで、生物学と医学におけるセレンディピティ(偶然の幸運な発見)を実現する技術の開発を行っています。それらの技術を用いることで、未知なる生命現象の発見、機構解明、応用展開を目指しています。物理学と化学を基軸とする一方で、理論、実験、計算的手法を最大限駆使し、分子生物学、電子工学、情報科学、生体医工学、応用数学、機械工学等の様々な異なる分野からの概念や手法を融合することで最適な研究開発を実施しています。

Profile

2021年度 化血研研究助成
合田 圭介

東京大学
大学院理学系研究科 教授

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