研究者インタビュー

化血研が助成させていただいた研究者の方々の研究内容、これまでの経験やエピソード、将来の夢などをご紹介します。

単一細胞における遺伝子・蛋白質発現同時解析による造血器腫瘍の病態解明

2021年度 化血研若手研究奨励助成

研究内容について教えてください

 大学院で研究を開始してから5年間は、横浜市立大学の幹細胞制御内科学(中島秀明教授)および免疫学教室(田村智彦教授)の下で、マウスモデルを用いて造血幹細胞の維持機構や骨髄系免疫細胞の分化機構を研究し、そのプロジェクトではフローサイトメトリーを中心とした解析を行っていました。

 2021年度より慶應義塾大学血液内科で新たなプロジェクトを始めるにあたり、これまで私が培ってきた実験技術と、血液内科研究室で力を入れているヒト検体を用いたシングルセル解析を融合させた新たな解析技術を開発し、造血器疾患の病態を解明したいと考え、シングルセル解析での蛋白および遺伝子発現同時解析手法を着想しました。

 まだ開発途上の段階ですが、従来の技術では評価できなかったデータを取得できるようになってきており、今後さらに技術開発を進めて、難治性造血器腫瘍の病態解明に繋げていきたいと考えています。

研究者を目指すきっかけ、血液分野へ進むこととなった経緯を教えてください

 学生の頃から腫瘍学に興味がありましたが、血液内科に進むことを最終的に決めたのは医師になって実際に血液内科で研修してからです。血液内科で行う化学療法は劇的に奏功するものもあり、それまで病気で苦しんでいた患者さんが正しい診断を受け、適切な治療を行うことで、日に日に元気になられる様子を見て、やりがいを感じました。また、指導してくださった上級医の先生が非常に優秀で、どの治療にもきちんとした根拠を持って取り組まれており、この先生のようになりたいと思えるロールモデルに出会えたことも大きなきっかけでした。

 一方で、まだまだ治療手段が定まっておらず、根治が難しい病気も多くあるのが現実です。血液内科医として診療に携わる中で、治療が難しい病気に苦しむ患者さんを目の当たりにし、研究を通してより深く血液学を学ぶことで、少しでも医療を前に進めることに貢献したいと思い、研究にチャレンジしてみようと考えました。

これまでのキャリアで印象に残っている経験はありますか?

 多くの先生に聴いていただいている中での学会発表や論文アクセプトのメールを見た瞬間なども嬉しい思い出ですが、上手くいかなかった実験結果を丁寧に見直し、改善点を考えて再トライして、再現性のあるきれいなデータが得られた瞬間(まさにそのフローサイトメトリーの結果が画面に表示された瞬間)が特に強く印象に残っています。

 当時お世話になった先生には実験が上手くいかなかった時期に親身に相談に乗っていただき、先生自身も大変な時でしたが、きちんと相談に乗っていただいたことをありがたいと思いましたし、自分もそうなれるようにと意識しています。

 基礎研究は上手くいかないことの方が多いですが、どんな失敗にも必ず原因があると考えています。出来る限り丁寧に準備した上で実験に臨み、期待通りの結果が得られなかった時こそ、次へ活かすヒントを見つけるチャンスと考えて、なるべく前を向くように心がけています。

今後の応募者へのアドバイス、血液分野に挑む若手研究者へのエールをいただけますか?

 若手枠でもご高名な先生がこれまでに多く採択されており、まだまだ研究者としての経験が浅い私がアドバイスというのはおこがましいですが、今回は挑戦的な課題の提案を評価していただけたのかと感じております。

 化血研の研究助成は、日本の血液学研究をリードされているトップランナーの先生方が審査してくださっていると思いますので、確実に結果が出そうな手堅い研究ではなく、チャレンジングなテーマで挑戦してみても良いのではないかと思います。

 私もこれから血液分野に挑んでいく若手研究者の一人ですので、刺激をいただきながら、一緒に日本の血液分野の研究を盛り上げていければと思っております。

将来の夢を教えてください

 血液内科の診療にも携わっておりますので、Physician ScientistとしてBenchとBedsideを繋ぐような研究を推進していくことが目標です。患者さんからご提供いただくサンプルはいずれも一度しか得られない貴重なもので、扱いも難しいですが、解析技術を磨き、最大限に活用させていただくことで、日常診療に還元できるような新たな知見を見出していきたいと考えています。

 現在の医療を支えている治療法は、多くの基礎医学的な知見が積み重ねられて開発されたものです。ゲームチェンジャーになる薬を自分で開発できれば最も良いですが、一つ一つのデータと真摯に向き合い、基礎研究を通じて難治性造血器疾患の治療の進歩に貢献していきたいと思います。

Profile

2021年度 化血研若手研究奨励助成
村上 紘一

慶應義塾大学 医学部
内科学教室(血液) 助教

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