研究者インタビュー
細胞間相互作用に着目した、骨髄増殖性腫瘍やクローン性造血から急性白血病への進展予防法の開発
2021年度 化血研若手研究奨励助成
研究内容について教えてください
私はこれまで、骨髄増殖性腫瘍や急性骨髄性白血病において過剰発現している遺伝子であるHMGA2やMDMXの機能について研究してきました。研究を進めるうちに、現在使われている、白血病関連遺伝子異常を持つマウスモデルのほとんどはすべての造血幹細胞に同じ遺伝子異常を持っていて、これは患者さんの体内で起きている現象とは全く違うのではないか、ということが気になりはじめました。すなわち、患者さんには正常な造血幹細胞もあれば、様々な遺伝子異常が生じた多くの種類の造血幹細胞も存在しています。完全には無理でも、できるだけ患者さんの体内を再現するようなマウスモデルで研究をやらないといけないのではないかと思っています。また、患者さんがクローン性造血から急性白血病を発症する過程で、多くの遺伝子変異クローンが出現したり消失したりしていることがわかっています。この時に消えてしまうクローンは、消失するまでの間に他のクローンの遺伝子異常の獲得や増殖性に悪影響を与え、病態の進展に寄与していないのだろうか、という疑問もありました。
この2つの疑問を解明できるマウスモデルを作成したい、というところから今回採択頂いたテーマが始まりました。白血病の発症に寄与する新しい機構を解明することで、クローン性造血などの前白血病から急性白血病への進行を阻止できる治療法の開発につなげたいと考えています。
研究者を目指すきっかけ、血液分野へ進むこととなった経緯は何ですか?
福島県立医科大学に在学中、血液内科の講義や実習を通して、悪性腫瘍を最初から最後まで自分たちで治療できる唯一の内科である、という点に惹かれて血液の道に進むことに決めました。卒後は東京に戻り、初期研修医を経て東京大学血液・腫瘍内科に入局しました。最初は造血幹細胞移植を始めとする臨床が楽しく、なんで大学院で研究するために臨床を中断しなくてはいけないのか、と腹を立て、先輩方にご迷惑をおかけしたのを覚えています。
大学院卒業と同時に、または東大から福島に戻ったタイミングで研究を辞める選択肢もあったのですが、なぜかずっと研究を続けていて、気がつけば海外に留学し、帰国後は研究中心のポジションについていました。最初は研究なんてつまらないと思っていたこと、そして今は研究が楽しいことは確かなのですが、いつから楽しくなったのかは自分でもわかりません。
これまでのキャリアで印象に残っている経験はありますか?
東京産まれなのですが、学生時代から福島という土地が好きで、卒業後一度は東京で働いたものの、卒後10年目に戻ってきました。ただ、最初の10年を東大の血液・腫瘍内科で過ごしたことは自分にとって大きな財産になりました。先輩にも後輩にも、信じられないくらい頭のいい人が何人かいました。彼らと同じレベルの仕事をすることはできなくても、そういう人がどのような物の考え方をするのか、ということを学ぶことができたのは大きかったと思います。
留学先はブロンクスというアメリカ国内でも屈指の犯罪率を誇る街でしたので、日々の生活に神経をすり減らされました。最初の一年間は同じラボに日本人もおらず、生活の立ち上げも大変でした。ただ、同僚も上司も親切でしたし、幸運なことに研究は大きな躓きもなく進み、3年半で論文をまとめて帰国することができました。途中で家族が帰国したり、コロナで一時帰国ができなくなったり、いろいろ問題は起こりましたが、総じて順調な留学だったのだろうと思います。
東大も留学先も大きな施設でしたので、福島県立医大はマンパワーや設備面ではかないません。しかし、いろいろな場所で研究をしてみた結果、研究の価値を決めるのはアイディアと熱意であり、世の中の役に立つ研究をしたいという気持ちさえあれば続けられるということがわかってきました。将来は、自分の研究を発展させることはもちろんですが、福島で研究をやりたいと思っている若い方々の手助けもできたら、と思っています。
今後の応募者へのアドバイス、血液分野に挑む若手研究者へのエールを頂けますか?
よく言われることですが、血液は臨床と研究の距離がとても近い分野です。臨床をやっていきたいと考えている人も一度は研究に触れてみることで、患者さんの病態を深く理解する助けになると思いますし、それで研究が楽しいと思ったら続けてみるのもよいのではないかと思います。
研究費の獲得に関して言えば、とにかく応募しないことには絶対に獲得できませんので、何度不採択通知をもらってもめげずに応募することが大事だと思います。
将来の夢を教えてください
今の時点で、”白血病は予防できる”と言ったら誰も信じてくれないと思います。しかし、臨床医として患者さんが辛い治療を受ける姿を見てきた経験から言えば、白血病は発症する前に治療するべき病気です。クローン性造血を中心とする前白血病から急性白血病に進行する際に重要な因子を解明することで、白血病の発症予防という新しい概念を創出したいと考えています。
Profile
2021年度 化血研若手研究奨励助成
植田 航希
福島県立医科大学
輸血・移植免疫学講座 講師