研究者インタビュー
ゲノム複製動態に基づく新興ウイルスに普遍的なサイトカインストーム誘導機序の解明
2021年度 化血研若手研究奨励助成
研究内容について教えてください
私は新興ウイルスの宿主適応と病原性について研究しています。特に鳥インフルエンザウイルスがヒト感染した際に獲得する変異群と複製動態の変化に着目してきました。鳥インフルエンザウイルスはこれまでに、エジプトやベトナムなどで多くのヒト感染を起こしており、患者内で変異ウイルスが出現してパンデミックにつながるリスクがあるからです。共同研究者と一緒にこれらの研究を進める中で、新興ウイルスが宿主適応の過渡期に異常なゲノムRNAを過剰合成している可能性があることが分かりました。鳥インフルエンザウイルスと新型コロナウイルスは、動物からヒトに侵入する点で同じです。化血研の申請テーマでは、新型コロナウイルスを対象に、異常なゲノムRNA合成によってヒト生体内で免疫応答が惹起されていないか、また過剰な免疫応答がサイトカインストーム発生などのCOVID-19における重篤化機序に関わっていないかを解析します。本助成によって、包括的にRNA解析を実施できるために深く感謝しております。
研究者を目指すきっかけ、感染症分野へ進むこととなった経緯は何ですか?
大学では獣医学科に進学しました。研究に興味がありながらも4~6年生で臨床系教室に所属したこともあり、卒業を控えて同期の多くが臨床へ進む道を選ぶ中、私も休みを利用して卒後に働く病院を探して研修に行っていました。そんなタイミングで、同卒で大阪大学微生物病研究所でボルナ病ウイルス研究をしていた朝長啓造先生(現、京都大学医生物学研究所)から、大阪での研修終わりに研究室を訪ねてみないかと声を掛けてもらいました。この一声がきっかけで、卒後に微生物病研究所(ウイルス免疫分野)の大学院博士課程に進学することを決めて今日に至りますので、人生は色んな縁で決まるものだと感じます。博士課程で朝長先生の下でボルナ病ウイルス研究に携わった後、ポスドク~助教ではウイルス免疫分野の教授だった生田和良先生(現、名誉教授)の下で鳥インフルエンザウイルス研究に従事しました。生田先生が退官されて研究室が解散となることを契機に、現在の京都府立医科大学感染病態学(中屋隆明先生の研究室)に移りました。このような経緯から、獣医師として医学領域の新興ウイルス研究分野に進んでいます。
これまでのキャリアで印象に残っている経験はありますか?
生田研究室は室員の半分ほどが外国人で国際色が豊かだったので、複数の国際感染症事業が同時進行していました。事業を通じて、アジア・アフリカ諸国を中心とした海外研究者や留学生が頻繁に生田研究室で実験や短期研修をこなしていましたし、逆に生田先生と室員が頻繁に現地機関を訪問していました。このように海外と幅広い感染症分野のネットワークを形成する研究室に所属していましたので、私も中国、タイ、ベトナム、インドネシア、インド、エジプトなど様々な地域に赴いて現地調査や交流事業に参加できたことが印象に残っています。ハプニングも多かったですが(僻地で移動車が故障したり、警察の護衛を受けて滞在ホテルに戻ったり)、今では笑い話になるエピソードばかりなので、それらの1つ1つが貴重な財産です。
疫学研究だけであれば現地機関だけで完結することもできましたが、海外での疫学調査に加えて実験室での仕事も好きな私は、海外で1~2ヶ月疫学調査をしつつ、疫学的に重要な事項に関して日本の大学で分子生物学的に解析するスタンスが好きで、両者のバランスをとりながら研究をしていました。振り返ってみると、私が若い頃に何となくしてみたいと思い描いていたことに一番近いことがこの頃できていたのだと思います。これらの経験は、今の私の研究スタンスにも強く影響しています。
今後の応募者へのアドバイス、感染症分野に挑む若手研究者へのエールをいただけますか?
アドバイスやエールを送れる立場にありませんが、僭越ながら私の経験から以下のことを述べさせて頂きます。
私が研究助成を受けることができたことからも、自身の強みを生かした研究であれば審査委員の評価を得て本助成に採択されるチャンスが十分にあると感じます。今後の応募者へ情報となるか分かりませんが、私は昨年度に同内容で応募して不採択でしたが、今年度は申請書をブラシュアップ後に再申請して採択となりました。感染症分野を対象とする研究助成は国内にほとんどありませんので、ぜひ多くの方々に粘り強く申請して助成の機会を得て頂きたいです。
感染症は古典的な学問かも知れませんが、実際に研究してみるとまだ分かっていないことが多く学問的にとても興味深い分野です。またCOVID-19の影響を鑑みても、医療や社会公衆衛生と直結する研究する価値がある分野です。一方で、長い研究のキャリアを続けるには、自分の研究を楽しんで追及する姿勢が(現在もですが)今後はさらに大切になると感じます。ぜひ多くの若手研究者に自身の志向や強みを生かしたアプローチから感染症分野に携わって頂き、ポストコロナにおける予防法や治療法の新展開につながる研究をして欲しいと期待します。
将来の夢、研究を発展させるビジョンを教えてください
新興ウイルス感染症は、野生動物や家畜で流行していたウイルスがヒトに侵入して起こります。いつでも種の壁を超えられるわけではなく、両者のインターフェイスにおいて、ウイルスがある要件を満たして初めてパンデミック化します。さらに新興ウイルスはヒトに概して高い病原性を示しますが、対して季節性ウイルスは「かぜ」症状を引き起こす程度です。種の壁を越えてパンデミック化する条件とは何か、なぜ新興ウイルスは高病原性を示すのか、それらに共通原理があるのかを理解することで新興ウイルス感染症に対する新しい予防法や治療法の開発につなげたいと考えています。その目的達成のために、今後もアジア・アフリカ地域に赴いて現地の研究者と連携した国際感染症研究を展開したいと思います。
Profile
2021年度 化血研若手研究奨励助成
渡邊 洋平
京都府立医科大学 大学院医学研究科
感染病態学教室 講師