研究者インタビュー

化血研が助成させていただいた研究者の方々の研究内容、これまでの経験やエピソード、将来の夢などをご紹介します。

ヒト白血病幹細胞特異的代謝特性を標的とした治療法の確立

2020年度 化血研若手研究奨励助成

研究内容について教えてください

 申請させていただいた内容は、ヒトの白血病幹細胞における代謝特性を標的とした治療戦略を見つけようというものです。造血幹細胞研究をされている須田年生先生と共同研究をさせていただく機会があり、そのおかげで造血幹細胞と代謝に興味が湧き、白血病幹細胞へ応用しようと考えたことが研究のきっかけとなりました。

 2013年ごろから代謝解析のための構想を練り始め、2015年ごろから具体的なデータ採取に取り掛かりました。当初は、造血幹細胞の代謝解析に関する知見が少なかったため、がんの代謝解析に関する知見を基に実験していましたが、血液細胞はがん細胞と比べてとても小さいので、がん細胞を用いた実験では上手くいっても、血液細胞を用いた実験では代謝産物の量が足りず、上手くいきません。

 しかし、私達の研究においては、代謝産物の足りなさを克服するために、単純に白血病幹細胞のセルラインや細胞株の培養細胞数を増やしても意味がありません。なぜなら私たちが観察したいのは、臨床検体を用いた患者様由来の白血病幹細胞だからです。しかしそれだと、実験で必要とされる細胞数の100分の1の細胞数ですら集めるのが困難です。その細胞数でいかにアプローチできるかというのが私たちの研究の最大の難点でありました。

 そこで、世界的なメタボローム研究のパイオニアである慶應義塾大学の曽我朋義先生とコラボして、代謝産物の高感度解析技術を用いることで細胞数の障壁を突破し、臨床検体を用いたヒト白血病幹細胞の大きなメタボロームデータベースを構築することができました。それを用いることで、化血研に申請した代謝解析だけでなく、様々な研究を派生して立ち上げることができていますので非常に役に立っています。

血液内科を目指したきっかけは何ですか?

 学生の頃からがんを研究したいという希望がありました。固形がんは外科医が手術し、放射線科が放射線療法を担当し、内科が化学療法するという集約的な治療をするため、内科医が主力として地位を目指すのは難しいです。一方、血液がんは、内科医が主体として治療をすることができ、そこに興味を持ち、研究に取り組みたいと思いました。

 私が研修医の時、慢性骨髄性白血病の治療薬グリベックが上市されました。グリベックは従来の抗ガン剤と違い、BCR -ABL融合遺伝子を標的とした分子標的治療薬で、今まで治らなかった人が飲み薬で治るようになりました。

 このように、病態の分子基盤が分かり、それを標的とする治療ができれば予後が劇的に変わることを目の当たりにしたことがきっかけで、自分もリサーチして何かを見つけ、自分が生きているうちに薬になればいいなと思い、九州大学病院の第一内科に進みました。その時の第一内科の教授でいらっしゃった原田実根先生は退官間近でしたが、私が亀田総合病院に研修に行く後押しをしてくださりました。私が研修から戻ってきたときに、ちょうどハーバード大学から戻ってこられた赤司浩一先生が新しい教授となられ、赤司先生のご指導のもと造血幹細胞、白血病幹細胞研究を続けています。

これまでのキャリアで印象に残っていることはありますか?

 私は2010年にヒトの白血病幹細胞において高発現するTIM-3が、新たな白血病の治療標的となることを発表しました。当時はTIM-3に関して赤司先生の昔の留学先であったWeismannラボと、私たちがほぼ同時期に同定して競っていました。ある年の日本血液学会のシンポジウムで、私はWeismann の目の前でTIM-3に関する発表をすることになっていました。その時点ではまだ正式にアクセプトされておらず、どのように発表しようかと悩んでいました。しかし、まさに発表の日の朝にアクセプトの連絡が来て、競合相手の目の前で“in press”と書かれた発表データを示すことができたことが印象に残っています。

今後の応募者へのアドバイスをいただけますか

 化血研の研究助成のような大きい金額を頂けるグラントはほとんどありません。これからの応募者には、化血研さんがちゃんと審査いただいて獲得できる良い助成金なのでぜひ応募してほしいです。

 現在、TIM-3に関しては、MDS/AMLを対象とした臨床試験がglobal phase3まで到達しています。2010年に発表したものが、2021年にはglobal phase3まで進んでいます。ここまで進むと、自分の研究したことが患者さんの役に立つのだと実感します。生きているうちに自分が発見したことが臨床応用され、評価を受けて社会に還元できると、臨床医としてこれ以上の幸せはありません。

血液分野へ挑む若手研究者へのエールをいただけますか

 若い先生たちには、bench to bedを意識して研究を行うとやりがいがあるのかなと思います。研究スピードは加速度的に進歩していますので、研究成果が人の役に立つことがそんなに遠くないのかなと思います。基礎研究が大事なことも分かりますが、私はあくまで臨床医なので、応用できる、役に立つ、治療薬になるということを考えてしまいます。それができるフィールドで一緒に研究を頑張りませんか。

 若い方へ希望するのは、第一内科は基礎研究の段階から面白いことが明らかになればすぐに応用されます。研究は日進月歩ですので、一度研究に身を置いていただいて、研究の面白さを経験してみるのもいいのではないかと思います。研究をしてものの考え方、まとめ方そして発表の仕方を鍛えることは、そのまま臨床力の向上にも直結し、より深く病態を理解することにつながるということをメッセージとさせていただければと思います。

Profile

2020年度 化血研若手研究奨励助成
菊繁 吉謙

九州大学病院 第一内科
遺伝子・細胞療法部 講師

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