研究者インタビュー

化血研が助成させていただいた研究者の方々の研究内容、これまでの経験やエピソード、将来の夢などをご紹介します。

血液中の脳梗塞後炎症抑制因子の探索

2020年度 化血研若手研究奨励助成

研究内容について教えてください

 私は大学院の博士課程の頃から、脳梗塞後の免疫応答について研究しています。昔、祖父が脳梗塞を再発したときに、再発時の方が症状がひどかったため、脳梗塞再発時の免疫応答の違いを知りたいと思い、マウスでの脳梗塞再発実験を始めたのがきっかけです。しかし、マウスモデルを用いて脳梗塞を再発させると再発時には炎症応答が抑制されており、脳梗塞は小さくなることが分かりました。具体的には脳梗塞慢性期のマウスの反対側の脳にもう一度脳梗塞を起こすと、炎症性マクロファージが減少して抗炎症性に変化したり、炎症性のTh1細胞が減少し、炎症抑制性のTregが増加します。また、脳梗塞マウスの血液から血清と末梢血単核球をそれぞれ静脈注射すると脳梗塞が軽減されることから、脳梗塞慢性期のマウスから採取した血清や末梢血単核球に脳梗塞抑制能があることが分かりました。化血研の申請テーマでは、マウスの血清や末梢血単核球中に含まれる、脳梗塞抑制因子の探索を行います。

 助成金の使い道は、研究室の立ち上げ時に必要な、細胞培養用の顕微鏡やフローサイトメーター関連機器などに使用させていただきました。その他も、ボルテックスミキサーやチューブスタンドなど様々なセットアップ用資金として使わせていただき、実験を始めるために非常に助かりました。

研究者を目指すきっかけ、免疫学分野へ進むこととなった経緯は何ですか?

 研究職を目指そうと思ったのは、高校生の進路を決める時期でした。もともと医療系に進みたいとは考えていましたが、人見知りでコミュニケーションをとるのが苦手だったため、直接患者さんと関わる仕事より、研究によってたくさんの患者さんを救えるような仕事をしたいと思い、九州大学の医学部生命科学科という医学系研究者育成コースに進みました。ここには第一期生として入学しましたが、高校の先生方には猛反対されました。他の大学の医薬系の学部に進学したほうが良いと強く言われましたが、結果的には生命科学科に進学して良かったと思います。その学科の4年生時の卒業研究は、先生や研究室の雰囲気を見て、厳しく研究の指導してくれそうだと思い、九州大学医学研究院ウイルス学分野の柳雄介先生の研究室でお世話になりました。最初に与えていただいたテーマがインフラマソームという自然免疫に関する分子のウイルス感染による活性化機構の解明で、そこから徐々に免疫学分野に進んでいきました。柳研究室での学部4年生、修士課程では主に自然免疫応答について研究を行いました。その後、脳梗塞後の免疫応答について興味を持ったため、大学院博士課程では慶應義塾大学微生物学免疫学教室の吉村昭彦研究室の門を叩き、よりコアな免疫学分野の研究に進むことになりました。

女性研究者としてのキャリア&ライフパスについてご自身の経験を教えてください

 特に、女性研究者だからといってキャリアについて特別なことはないと考えていますが、昨今は大学でも研究費でも学会などでも女性や若手を含めることが重視されているので、女性であることによって色々な機会に恵まれることは実感しています。私のキャリアパスですが、慶應義塾大学で博士課程を取得し、その後、そのまま吉村先生の研究室で学振PDで3年間ポスドクをして、講師として雇っていただき、10カ月ほど講師をしてから、現職である九州大学生体防御医学研究所のテニュアトラック准教授になりました。留学をしたいと考えて海外の研究室探しなども行いましたが、現職に就くことができて、今のところは後悔していません。

 ライフパスについては、女性研究者ですが子供もいないので、こちらに関しても特に女性だからと言って特別なことはないです。結婚はしていますが、主人も研究者なので私の仕事について理解してもらっています。

免疫学分野に挑む若手研究者へのエールをいただけますか

 まだ、エールを送るような立場ではありませんが、僭越ながら私の思うことを述べさせていただきます。

 学生の頃は免疫学分野は覚えることが多くて難しそうなイメージを持っていましたが、実際研究を始めてみると複雑であるからこそやりがいも感じます。また、感染症やがんなど様々な病態と直結する重要な分野ですので、研究をする価値があります。私は脳の免疫応答について研究をしていますが、一見すると免疫細胞が関与して無さそうな現象にも免疫が重要な役割を果たしているということはとても面白く思っていて、脳に限らず全身でなんらかの免疫応答が駆動して生命の維持に寄与していると思うと、非常に魅力的な分野だと思います。周りの研究のレベルも高くて大変だとは思いますが、諦めずに楽しんで自分の好きな研究を追求して欲しいと思います。

将来のビジョンについて教えてください

 様々な脳内炎症や神経変性疾患、精神疾患において免疫系の関与が示唆されていますので、このような免疫細胞と神経細胞をはじめとする脳内細胞との相互作用とそれによる影響を明らかにすることは、様々な神経炎症関連疾患の病態解明および治療・予防法の開発につながることが期待されます。神経関連疾患にかかわる免疫系の共通原理を発見し、全く新しい治療法の開発につなげたいと考えています。

Profile

2020年度 化血研若手研究奨励助成
伊藤 美菜子

九州大学 生体防御医学研究所
附属システム免疫学統合研究センター
アレルギー防御学分野 准教授

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