研究者インタビュー

化血研が助成させていただいた研究者の方々の研究内容、これまでの経験やエピソード、将来の夢などをご紹介します。

タンパク質カルボキシル化による新規抗ウイルス応答制御機構の解析

2020年度 化血研若手研究奨励助成

研究内容について教えてください

 哺乳動物の細胞は、ウイルスに感染に対する初期応答として抗ウイルス作用のあるタンパク質I型インターフェロン(IFN)を産生したり、自殺したりすることでウイルスに対抗します。これら二つの抗ウイルス応答はウイルス排除に貢献するためウイルスに感染した生体にとって有益である一方、皮肉にも状況によっては感染した生体にダメージを与え有害となるという”矛盾”を抱えていることも分かっていました。ウイルスに感染した細胞が状況に応じて二つの応答を使い分けることで、こうむる利益と不利益のバランスが保たれれば、感染した生体が生体内のバランス(恒常性)を維持しながら効率的にウイルスを排除できるようになります。しかしながら、ウイルスに感染した細胞が二つの応答を選択しているのか、また選択しているならばどのような仕組みに基づいているのかはこれまで解明されていませんでした。

 私は、タンパク質の翻訳後修飾の1つであるカルボキシル化という珍しい修飾がこの選択に貢献し、宿主防御に重要な役割を果たすことを見出し、現在更なる解析を行っています。最近自身の研究室を新設したところであり、研究をスタートするのに必要な冷蔵庫や実験台等を購入させて頂きます。

研究者を目指すきっかけ、感染症分野へ進むこととなった経緯は何ですか?

 大学で法律を研究していた父の影響もあり、子供の頃から漠然と将来は研究者になるのかなと考えていました。「研究者はいいぞ、好きな事をしてお金がもらえるし、夏休みも長い」と良く父に言われたものです(実際なってみると、好きな事をしてお金をもらえるのは本当でしたが、夏休みは短いor無い笑)。高校まで生物をほとんど学んだ事がなく、大学受験も物理と化学を選択しました。大学一年の時に、「教養として生物ぐらい知っておいたほうがよいだろう」ぐらいの気持ちで生物学の講義を受講したのが今の生物研究者を目指すきっかけです。それまで生物と言えば単なる分類・暗記といったイメージを持っていた自分にとって、セントラクドグマ(DNA->RNA->タンパク質)という概念(ルール)は衝撃的であり、複雑な生命現象が科学的に説明できる(ようになる)ことに感動しました。同じような感動を生む発見をいつか自分から発信したいという思いから、真剣に研究者を目指すことにしました。

 感染症を引き起こす病原と宿主の巧妙な駆け引きには驚きがいっぱいです。ウイルスはその小さなゲノムに宿主の免疫系を回避したり、時にはハイジャックしたりする遺伝子を持っています。宿主も負けておらず、様々な方法でウイルス排除を試みます。「非自己」を認識して排除するこの免疫の精緻な仕組みに魅せられ、感染症分野へ進みました。

これまでのキャリアで印象に残っている経験はありますか?

 これまで東京大学の後藤由季子先生の研究室にいたのですが、2021年の3月から准教授(テニュアトラック)として北海道大学の遺伝子病制御研究所に研究室を構えることになりました。そのきっかけは、後藤研究室主催セミナーの一環で当時遺伝子病制御研究所の所長をされていた村上正晃先生が招待され、一対一でディスカッションを行ったときに村上先生が私の研究に非常に興味を持って下さったことです。それに加えて、ある学会で後藤先生が私の研究内容を発表して売り出してくれた時に、たまたまそれを聞いていた他の北海道大学の先生が私の研究を高く評価して下さり、その2人の先生が、私を後押ししてくださいました。このことから、「どんな研究発表でも全力でやろう、どこで何がきっかけになるか分からないから」と、学生には言っています。また、そのとき発表した内容はまだ論文として出版していなかったのですが、面白くていい仕事をしていれば、ちゃんと評価してくれる人がいるということを思いました。

今後の応募者へのアドバイス、感染症分野に挑む若手研究者へのエールをいただけますか?

 感染症分野に限らず、若手研究者に対して。
僭越ながらアドバイスさせて頂きますと、とにかくオリジナルな研究を続けてほしいと思いますし、自身もそのように努めています。誰もが思いつく重要な課題に対してスタンダードな手法で挑んでも勝ち目は少ないと思います(Bigラボにいるか、とてもスマートなら別)。「他人の仕事を学んでもオリジナリティには繋がらない」という意見もありますが、私は逆に普段から広く情報収集することを心掛けています。他の研究者の論文を読んでオリジナルな視点を持つ研究に数多く触れることで、客観的に自身の研究に目を向けてそこに存在するオリジナリティに気が付くのではないかと考えるからです。また、流行りの研究は気にしていません。今この瞬間流行っているからといって、必ずしも本質的に重要なテーマであるとは限らないと思っています。一方で新しい手法は、新しい知見につながるため積極的に取り入れます。オリジナルな着眼点から、オリジナルな手法でアプローチすることで新しい発見に繋がり、それによって将来的に感染症に対する新たな治療戦略が見つかるのではと思います。

将来の夢を教えてください

 「志の高いサイエンスを目指す」という恩師・後藤由季子先生の言葉に従い、目先の成果に囚われず、より本質的な、より普遍的な真理の発見を目指す研究を行い、いきものの持つ「美しさ」を発見することが将来の夢です。例えばセントラルドグマのような、中心的な概念を見出すことを目指します。そうした中から、うまく治療や応用への展開が生まれてくるのではと期待しています。

Profile

2020年度 化血研若手研究奨励助成
岡﨑 朋彦

北海道大学
遺伝子病制御研究所 准教授

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