研究者インタビュー

化血研が助成させていただいた研究者の方々の研究内容、これまでの経験やエピソード、将来の夢などをご紹介します。

新規Tリンパ球の同定ならびにその生理学的・病理学的意義の解明

2020年度 化血研若手研究奨励助成

研究内容について教えてください

 私たちの体内にウイルスや細菌などの病原体が侵入すると、免疫システムはこれらの外来異物を検知し、生体内からこれを排除しようとします。免疫系の中でも「Tリンパ球」と呼ばれる細胞集団は、自己と非自己を識別し有害な非自己抗原のみを選択的に排除する、いわば免疫反応の司令塔としての役割を担っています。私たちは最近、Tリンパ球の一集団として、非常に特殊な性質を持つ細胞群を発見し、これを「MP細胞」と命名しました(Sci Immunol 2017)。MP細胞は、Tリンパ球であるにもかかわらず自己抗原を認識する能力を有し恒常的に活性化状態を呈する一群として、現在注目を集めています。私たちは、同細胞の産生・維持・分化・活性化機構、生理学的ならびに病理学的機能について、あらゆる方面から精力的に研究を行っています。

研究者を目指すきっかけ、感染症分野へ進むこととなった経緯は何ですか?

 私は、大学の学部生の頃から研究者に憧れ、当時より免疫学研究室に出入りし実験に従事させていただいておりました。卒業後は初期臨床研修に従事したのですが、そこで強く感じたのは、基礎疾患のない若い患者さんにとってと免疫力の低下した高齢患者さんにとってでは、感染症は全く別の意味を持つということでした。つまり、前者の場合には多くの場合には対症療法や抗菌薬投与等で寛解・治癒するのに対し、後者の場合には致命的になる場合もあります。学部生の頃に学んだ、細菌感染には抗生剤投与という単純な理解では不十分であるということを痛感させられ、免疫学の基礎を学びたいとの思いを新たにしました。このような理由から、初期研修修了後は大学院に進学し、米国留学を経て現在に至っております。

これまでのキャリアで印象に残っている経験を教えてください

 私は、2019年まで5年半、米国NIHに博士研究員として勤務しておりました。NIHは首都ワシントンDCの近郊、メリーランド州ベセスダという都市にあり、予算規模でも研究員の規模でも世界最大の医学研究施設です。同研究所で、これまでに教科書を書き換えるような大発見をしてきた多くの先生方と一緒に仕事をすることができました。

 近年、日本における研究環境が飛躍的に向上し、研究者になるための要件として、以前ほど海外留学の必要性が叫ばれなくなってきています。しかし、「自由」や「多様性」などの科学に不可欠な考え方を学ぶという意味で、今日においても海外留学は極めて重要な機会であり続けていると私は思います。NIHでの得難い体験が私にそのことを学ばせ、研究者としての今の私を形作っています。

今後の応募者へのアドバイス、感染症分野に挑む若手研究者へのエールをいただけますか?

 研究に対する考え方は研究者によってそれぞれだと思いますが、研究の醍醐味は何といっても、自分の興味のある研究課題を自分が納得いくまで追究できる、あるいは自分の研究領域を自ら開拓できる、というところにあるのではないかと私は考えています。その意味で、自らのテーマに自律性をもって取り組むということは、自分を含め全ての研究者にとって非常に重要な姿勢なのではないかと思います。この点で、化血研若手研究奨励助成では、300万円という若手にとって大変大きな金額を助成して下さるため、このような機会を積極的に活用されるといいのではないかと思います。是非、感染症学・免疫学を一緒に盛り上げていきましょう!

将来の夢、研究を発展させるビジョンについて教えてください

 私どものMP細胞研究は、将来的に、臨床医学上、重大な貢献を果たし得ると考えられます。その一つは、感染症における新たな治療戦略の創出です。抗ウイルス薬や抗菌薬による、特定のあるいは限定的な病原体を標的とする従来の感染症治療においては、COVID-19のような新興感染症に対する創薬に時間がかかり、また薬剤耐性等の変異を獲得した病原体への対応が困難でした。これに対し、本研究にてMP細胞の活性化機構が解明されれば、同細胞を人為的に賦活化しその機能を強化することで、病原体を問わずあらゆる感染症について初期段階での迅速かつ効果的な対応を可能にする、いわば「免疫賦活化治療」を新たに提起できるものと期待されます。一方、本研究ではMP細胞の自己特異性に着目し、同細胞の機能亢進こそが自己免疫・炎症性疾患の主病態であるとの可能性を追究しています。本研究が完遂されれば、長らく難病とされてきたこれら疾患群の本質的病態が解明され、その根治的治療・予防法の確立に光を射すものと期待されます。

Profile

2020年度 化血研若手研究奨励助成
河部 剛史

東北大学大学院医学系研究科
病理病態学講座免疫学分野 准教授

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