研究者インタビュー

化血研が助成させていただいた研究者の方々の研究内容、これまでの経験やエピソード、将来の夢などをご紹介します。

造血早期運命決定の感染防御における意義の解明

2020年度 化血研若手研究奨励助成

研究内容について教えてください

 私たちは『どのようにして造血幹細胞から数十種類もの血球細胞が産生されるのか』ということについて研究を行っています。これまで造血幹細胞は、分化能が段階的に失われて、最終的に1種類の成熟した血球細胞が産生されると考えられてきました(それを多段階分化モデルと呼びます)。しかし、最近の私たちの研究によって、造血幹細胞の一部や多分化能があるとされてきた上流の前駆細胞集団の中には、限られた種類の細胞種のみを産生する亜集団が含まれることがわかってきました。このことは血球細胞の運命決定は造血幹細胞に近い造血早期段階でも生じることを示唆しています。

 造血幹細胞から産生される血球系細胞の1つに樹状細胞があります。樹状細胞は、細菌やウイルスなどの病原体が体内に侵入した時に、自然免疫や獲得免疫を誘導する極めて重要な役割を持っています。私たちは、感染時には早期運命決定のシグナルが活性化することで樹状細胞の素早い産生を可能にし、効果的に病原体を除去することに貢献しているのではないかと考えています。この研究を通し、早期運命決定の分子メカニズムやその免疫学的な意義を明らかにしていきたいです。

研究者を目指すきっかけ、血液分野へ進むこととなった経緯は何ですか?

 大学生の時に、私は企業に就職して働くか大学院に進学して研究者として生きていくかとても悩みました。そして一度きりの人生なので、自分が思う一番かっこいい生き方をしようと考えました。私にとってはそれが研究者でした。研究者は誰も見たことも聞いたこともないようなことを発見する、冒険のような職業です。今でも、新しい研究結果が出る時には、本当に興奮します。このような経験ができるのは研究者ならではだと思います。

 大学院生の時に、血球細胞の1種であるマクロファージについて研究したことが血液分野に進むきっかけとなりました。マクロファージは全身の臓器に存在していますが、臓器によってそのはたらきは全く異なります。さらに、同じ臓器でも機能の異なるマクロファージが存在します。私はこのようなマクロファージの多様性形成の仕組みに興味を持ちました。現在はより大きく血球系全体の多様性形成の仕組みについて理解したいと考えて研究を進めています。

これまでのキャリアで印象に残っている経験はありますか?

 2010年に神戸で行われた国際学会で、マクロファージの分化に関する研究を発表されていた横浜市立大学の田村智彦先生と出会ったことが縁となり、翌年から、田村先生の教室で助教として勤務することとなりました。2011年当時、次世代シーケンス技術が出始めたころであり、次世代シーケンス技術を用いた研究はあまり行われていませんでした。田村先生の研究室では次世代シーケンス技術の一つであるクロマチン免疫沈降シーケンス技術を使って、転写因子の研究を行っていました。クロマチン免疫沈降シーケンス技術を用いると、転写因子が結合しているゲノム領域を全て調べることができます。この技術を知った時、将来必ず重要になる技術だと衝撃を受けたことが、私のキャリアの分岐点になりました。それからは、海外を含めた様々な先生に次世代シーケンスに関する様々な技術を教えていただき、それらの習得に励みました。現在の研究室でも次世代シークエンス解析を最大限に利用して研究を進めています。

血液分野に挑む若手研究者へのエールをいただけますか?

 ある研究者が研究における独創性とは何かという問いに、その1つは研究手法の独創性であると答えていました。造血幹細胞の運命決定の仕組みの研究は以前からあるテーマですが、それをどのようなアプローチで解析していくのかが重要と考えています。独創的なアイデアを思いつくのは大変なことですけど、新しい技術に挑戦することは誰にでもできます。大事だと思った技術は勇気をもって習得することが、自分の研究の独創性につながるのではないかと考えています。

 研究を始めたばかりの大学院生の方へ:私は、大学院時代は論文になるような結果がなかなか出せず悩んでいました。しかし、自分の好きな研究分野を深く勉強していく中で、まだ解明されていない問題が明確になり、少しずつ成果が出るようになりました。私はマクロファージについての重要な論文はほとんど全て読みました。大学院時代の恩師は、誰でも論文を50本も読めば専門家になれるとおっしゃっていました。研究が上手くいかない時には徹底的に論文を読み込んで、どこに解決すべき点があるのか考えていくことで研究を発展させるヒントが得られると考えています。

今後研究を発展させるビジョンを教えてください

 ヒトの細胞1個に含まれるDNAは全長で2メートルもありますが、細胞の核の中で規則正しく折りたたまれて構造(クロマチン高次構造)を形成しています。最近の研究によって、その構造が細胞種によって異なることが分かってきました。血球系細胞では例えば単球と樹状細胞の間でも大きく違います。しかし、血球細胞におけるクロマチン高次構造の違いにどのような意義があるのかはよく分かっていません。また感染や炎症時における造血においてクロマチン高次構造がどのように変化するのかについても不明です。私たちは血球細胞分化におけるクロマチン高次構造の変化やその変化のもつ意義を今後明らかにしたいと考えています。

Profile

2020年度 化血研若手研究奨励助成
黒滝 大翼

熊本大学
国際先端医学研究機構 特任准教授

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