研究者インタビュー

化血研が助成させていただいた研究者の方々の研究内容、これまでの経験やエピソード、将来の夢などをご紹介します。

腫瘍内シグナルと腫瘍外免疫環境を同時に標的とする難治性悪性リンパ腫の新規免疫療法の開発

2020年度 化血研若手奨励金助成

研究内容について教えてください

  造血器腫瘍の中でも、悪性リンパ腫という病気を専門に研究してきました。腫瘍化した細胞は、自身の増殖を促進したり、薬剤耐性を持つようになりますが、これは遺伝子が変異することによって、細胞分裂や細胞を取り囲む微小環境の制御に関わる遺伝子のシグナルが異常に活性化されるためです。近年私達は、悪性リンパ腫を含むいくつかの血液ガンにおいて、腫瘍細胞内で細胞分裂などのシグナルの活性化を引き起こすと考えられていた遺伝子変異が、同時に細胞外からの免疫応答シグナルを抑制し、腫瘍の免疫逃避を引き起こすことを報告いたしました。私達は、このような細胞内外へのシグナルを同時に制御する遺伝子群が他にもあるのではないかということを調べ、さらに治療においてこのような遺伝子変異をターゲットとすると、細胞の内外から腫瘍細胞を攻撃でき、二重の効果が期待できることが重要なポイントとなります。

研究者を目指すきっかけ、血液分野へ進むこととなった経緯は何ですか?

 学生時代は移植医療に興味を持っていました。外科の道に進むことも考えたのですが、研修医の時に、白血病の患者様が骨髄移植によって症状が改善されたことに感銘を受け、血液内科に進むことを決めました。それからは、造血器腫瘍をはじめとして白血病、悪性リンパ腫などの臨床に携わっています。臨床医として最初の10年間は、様々な病院を渡りながら臨床研究を行っていました。当時は疾患予防のためのバイオマーカーの研究をしていて、臨床情報や病理学的な検査から得られたデータを用いて、患者様に合ったマーカーを探していました。

 そのような中で、臨床研究だけでは見えてこないものを解決したい、という思いが芽生えてきました。当時、悪性リンパ腫に関する世界的な論文が、カナダのブリティッシュコロンビア大学から数多く出ていたことから、自然とここで勉強したいと思うようになりました。ラボのボスであったRandy Gascoyneに相談した結果、運よく配属が決まり、悪性リンパ腫を題材としたトランスレーショナルリサーチを行うこととなりました。

これまでのキャリアで印象に残っている経験はありますか?

 現在の私は、医師を志した時に思い描いていたキャリアとは全く異なる方向に向かっています。先ほども述べたように、学生時代は外科系の道を考えていました。それが6年間の医学部生活の中で、血液内科を志すようになりました。配属当初は骨髄移植に興味がありましたが、その過程でバイオマーカーの研究に携わり、腫瘍のバイオロジーに興味が湧いてきました。そこからさらに追及して行った結果、遺伝子解析の世界に行き着きました。そして、カナダ留学後に日本に帰ってきたときには、もう骨髄移植からは完全に離れてしまいました。さらに、現在行っている仕事は血液内科というよりもガンゲノム医療を推進する立場になり、固形ガンの患者様を診断しています。いろいろなキャリアの転換があり、気づいてみたら最初とは全く違うキャリアとなっていたということから、人生はなかなか思ったようにはならないよ、と考えるようになったことが正直な所です。先のことは誰にもわからないので、その時その時で一生懸命やるのが良いと思います。

 大きな転換期はたくさんありますが、大事なのはどこに属しているかということが大きいと思います。私は、血液内科の臨床医の時は、特色のある病院に勤めていました。例えば、多発性骨髄腫と悪性リンパ腫に関して、それぞれ日本屈指の病院である、岡山医療センターと癌研有明病院に勤務し、その後大学に戻った後は、国立大学病院でも最も多い症例数で骨髄移植を行っておりました。それぞれのことをトップレベルの場で研究をさせていただき、悪性リンパ腫の研究がしっくりきましたので、今でも続けさせていただいています。

今後の応募者へのアドバイスをいただけますか?

 将来的なビジョンとして、患者様に還元できるような研究である必要があると思っております。大きな目標の中で、新しいテーマを選ぶ際には、新しい技術、知見が得られることが重要です。自分だけのものにとどまらず、患者様に還元でき、ひいては、日本の医学の発展に貢献するようなものがあれば、助成の有無に関わらず、いい研究になると思います。

将来の研究目標を教えてください

 私はクリニシャン・サイエンティストであり、基礎研究ばかりやっているわけではありませんが、ゴールとして治療薬の開発や標的因子の発見を見据えています。今回助成をいただき、その成果が造血器腫瘍において薬剤開発の土台となることが最初の目標です。次の段階では、造血器腫瘍だけでなく固形腫瘍にも対象を広げて、免疫療法が効きにくい患者様に福音があればよいなと思います。最終的には、治療薬の開発まで関わりたいのですが、専門的な知識が必要ですので、薬剤開発のチーム、それを販売するチームなどを結成できれば良いなと思います。

Profile

2020年度 化血研若手奨励金助成
遠西 大輔

岡山大学病院
ゲノム医療総合推進センター 准教授

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