研究者インタビュー

化血研が助成させていただいた研究者の方々の研究内容、これまでの経験やエピソード、将来の夢などをご紹介します。

サイトカイン応答性による発生・成人期造血幹細胞の維持制御機構の解明

2020年度 化血研若手研究奨励助成

研究内容について教えてください

 造血幹細胞は生体の成熟血球をすべて作り出すことができ、造血システムが健常に作用するためには造血幹細胞が維持されることが必須です。造血幹細胞は生涯の様々な時期で異なった制御を受けることが知られています。若年期においては生体の成長に合わせ、造血幹細胞は活発に増殖しますが、成人期では増殖性は抑えられ、静止状態で維持されます。成人期の造血幹細胞は炎症などのストレス造血時に再び増幅し、造血回復後、再度静止状態へ戻ります。一個体において、一つの造血幹細胞は最小限の増殖回数しか経験せず、増殖に関わるDNAダメージや代謝亢進による活性酸素種産生など様々な複製期ストレスより保護されています。

 しかしながら、造血発生時期から成人期にこのような細胞周期や細胞状態の変動がどのようなメカニズムを介して行われているかはよくわかっていません。血液の発生に重要な制御因子として、サイトカインがありますが、本研究は、様々な時期の造血幹細胞のサイトカイン応答性の違いに着目し、代謝制御及び細胞分裂時のDNA損傷修復機構が、造血幹細胞の自己複製、分化、静止期維持をいかに制御するかを解析することを目的としています。

研究者を目指すきっかけ、血液分野へ進むこととなった経緯は?

 私は医学部を卒業後、すぐに血液内科に入局し、内科医として研修を受けました。学生の頃から、基礎医学や科学的な実験に対し興味を持っていたこともあり、臨床から基礎実験、また基礎実験から臨床応用というTranslationが多く行われていた血液分野に興味をもち、入局しました。3年間の研修のあいだ、臨床の忙しさから、なかなか時間をかけて実験をするということが難しかったこともあり、基礎医学系の大学院に入学し、以後、実験血液学の分野で研究者を続けています。

 血液分野は実験主義的な面が私に合っていると感じました。また、他の分野と比べると研究が進んでいる分野だということがわかりました。例えば、白血病においては分子・遺伝子レベルで研究が進み新規の治療法も開発されていました。その他にも、骨髄移植が他の臓器移植よりも最先端を走っている印象がありました。造血幹細胞があるおかげで骨髄移植ができます。造血幹細胞を健康に保てたり、より強い造血幹細胞を同定できたりすると、骨髄移植や造血幹細胞の操作技術の発展につなげることができると考えています。

女性研究者としてのキャリア&ライフパスについてどのような経験をされましたか?

 私のこれまでの女性研究者としてのキャリアと女性としてのライフイベントを照らし合わせると、

博士課程 第1子出産
ポスドク 第2子出産
海外留学 夫を日本において子ども2人を連れて単身赴任

がイベントとして大きくあったと思います。女性は結婚、出産、子育てのいずれのライフイベントにおいても、仕事を変えたり、キャリアを中断したりすることに直面せざるを得ないと思います。私は幸いにも、これらのイベントにおいて、キャリアを中断せずに継続できたことが幸せであったと思っています。その間にはやはり、所属する研究室の理解や、同じ女性の同僚からのアドバイス、両親のサポートなどが大きかったと思います。ただ、自分の経験上、女性がしがみついてでもキャリアを継続させないといけないというプレッシャーから解放された社会にしていかなければいけないと思っております。私が研究をしていた時に、他の女性の研究者も同じように悩んでいましたし、お互いに頑張りましょうと背中を押されながら研究を続けていましたが、すこしペースダウンしてでも研究を続けられる環境があればよいなと思いました。研究を続け、独立した女性研究者・指導者の数を多くするためには、女性が働きやすい環境、ワークバランスを考えていく必要があると思っています。

血液分野に挑む若手研究者へのエールをいただけますか?

 1960年代に他の分野に先駆けて、血液には組織幹細胞である造血幹細胞が存在すると証明されました。以降、血液学は幹細胞生物学の先駆けとなり、幹細胞ニッチ、幹細胞多様性など幹細胞生物学の主な概念は実験血液分野から発生したと思っております。現在でも、造血幹細胞を用いた臨床的治療、幹細胞の老化機構、幹細胞の代謝維持機構など様々な分野で造血幹細胞と造血制御機構は研究され、まだまだ、血液分野は未開拓で魅力的な研究分野であると思っております。また、血液学は研究の臨床応用が行われやすい分野であることに魅力を感じます。

 今後、血液分野に挑む若手研究者の方には、ぜひ、血液学、幹細胞生物学、腫瘍生物学など分野にとらわれず、また臨床や研究などの体系を超えて、広く、Multidisciplinaryに発想をしていってもらいたく思います。

 また、女性の若手研究者の方へ、研究キャリアとライフイベントの両立は簡単とは言えませんが、決して不可能でもなく、同じようにキャリアを続けたいと考えている女性Scientistがいることに気づいてほしいと思います。

将来のビジョンを教えてください

 私自身、実験血液分野で研究をしてきましたが、実際自分自身のプロジェクト成果が臨床で、患者さんの治療に直結したということを実感したことがありません。今後、研究を進め、共同研究や臨床科とのネットワークを通して、新規の発見とその応用に取り組んでいきたいと思っています。

 また、女性研究者として、日本で唯一の女子医科大学である東京女子医科大学の教授として、より多くの女性Physician/Scientistの育成を手伝っていきたいと思っています。私もまだ子育て継続中ですが、子育てとキャリアを天秤に掛けるのではなく、バランスよく両方行っていける研究環境を日本の研究室に築いていきたいと思っております。

Profile

2020年度 化血研若手研究奨励助成
石津 綾子

東京女子医科大学
医学部 解剖学 教授

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