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研究者インタビュー

化血研が助成させていただいた研究者の方々の研究内容、これまでの経験やエピソード、将来の夢などをご紹介します。

宿主炎症応答を利用した病原菌の生体内増殖機構の解明と薬剤耐性菌治療への応用

2020年度 化血研研究助成

研究内容について教えてください

 感染を起こすとわれわれは微生物由来の外因性異物に曝されます。このような異物は細胞内受容体によって認識され、その下流ではインフラマソームとよばれるタンパク複合体が形成されます。私は、京都大学、米国ミシガン大学にて、感染症およびインフラマソームの分子機構について学び、その過程でインフラマソーム不応答のマウスがリステリアや黄色ブドウ球菌などの病原体感染に対して抵抗性を示すことを見出しました (Hara H et al. Cell 175, 1651-1664, 2018)。病原体を標的とした感染治療法は様々試されていますが、病原体の遺伝子変異を誘発することでさらなる耐性化が懸念されています。そこで、インフラマソームという感染増悪に働く免疫応答を制御することで、薬剤耐性菌を含む感染症が制御できるのではないかという着想に至りました。

研究者を目指すきっかけは?

 私は薬学部出身で、2年間研究室配属の機会がありました。薬理学教室や薬剤学教室、臨床薬学教室、有機化学教室など様々な研究室があるなかで、本来、医学部にあるはずの細菌学教室に目が止まりました。他の研究室が薬を中心として研究するなかで、細菌学は病原体という病気を起こす原因そのものを研究するという他とは異質な点に惹かれて研究室配属先を決めました。その後、感染症を理解するために、病原体だけでなく宿主側の免疫応答も研究したいと思い、京都大学医学部 微生物感染症学教室 (光山正雄教授)の門を叩きました。薬剤師として働く道もありましたが、自分が知りたいことを突き詰めて考え、黙々と実験し、新しい知見を探求することが性に合っていたので研究職を選択しました。

これまでのキャリアで印象に残っている経験はありますか?

 一番インパクトが大きかったのは、やはり海外留学です。私の場合、京都大学助教を退職して渡米しましたので、成果を上げるまでは帰国できないという思いで出国しました。留学先の研究室はPIがスペイン人でポスドクが10人程在籍しておりました。中国や韓国、イタリア、スペインなど様々な国から来ておりましたが、アメリカ人のポスドクはおらず、アメリカにいながら多文化の世界で研究を行っていました。私は6年間留学し、いくつかのプロジェクトに携わりました。その過程で、日本とは異なる研究の捉え方や進め方を体験しました。これは数ヶ月の短期留学で感じるのは難しく、私の研究方針にも大きな影響を与えていると思います。アメリカのPIはリーダーシップがあり、スポーツ選手と一緒で生活がかかっているので、なんとしてでも結果を出すという姿勢に感銘を受けました。私生活の面でも大変なことはありましたが、留学という選択を受け入れてくれた家族には感謝しております。

 2つ目は京都大学で研究に免疫学を絡めたことです。これによって、研究の意義も深まりましたし、研究の幅も広がりました。細菌学や免疫学だけを突き詰めるのも大事ですが、その一方で、感染症や感染免疫という複合領域を意識して研究を進めるように今でも心掛けていますし、これは留学先でも活かされました。

今後の応募者へのアドバイス、感染症分野に挑む若手研究者へのエールをいただけますか?

 日本国内における感染症研究を対象とした研究助成は極めて少なく、「化血研研究助成」は貴重な大型助成となります。2020年度は新型コロナウイルス流行下にも関わらず22倍もの応募があったことが、この研究助成の必要性を示していると思います。感染症を研究している方には積極的に応募していただき、感染症研究の必要性と魅力を発信していただくとともに、それに応えて、将来的には本研究助成制度のような感染症研究支援が拡大していくことを切に願います。

 日本は衛生環境がよいためか比較的感染症研究への関心が低いように感じます。しかしながら、実際には感染症にかかったことがない人はまずいませんし、近年の国際化や温暖化により多様な病原体が国内でみられるようになりました。また、他の病気と異なり、感染症は急速にパンデミックとなり得ます。新型コロナウイルスの例からもわかりますが、実用化に繋がる成果は日頃からの地道な研究の積み重ねを必要とします。世界の研究者と渡り合うためにも、本研究助成制度が感染症分野に多くの若手研究者を惹きつけ、感染症研究が活性化していくきっかけになることを期待しております。

将来の夢を教えてください

 2019年に帰国し、いまは独立特任准教授をしておりますが、教授として感染症学研究室を主宰することを目指しております。これまで職種にこだわりはなかったのですが、アメリカと異なり、日本では教授でないとPIとして権限がかなり限られることを痛感しました。研究しやすい環境を構築し、後続の研究者の育成にも尽力していきたいと思います。

 感染症を引き起こす微生物は多岐にわたり、どれも個性的で興味深いです。新型コロナウイルスや薬剤耐性菌の蔓延により課題は山積みですが、様々な分野の知見を取り入れながら研究の視野を広げていきたいと考えております。

Profile

2020年度 化血研研究助成
原 英樹

慶應義塾大学
医学部 微生物学・免疫学 特任准教授

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