第44回 阿蘇シンポジウム抄録集 2024
8/27

白銀 勇太東京医科歯科大学 大学院医歯学総合研究科 ウイルス制御学分野1) Shirogane, Y. Watanabe, S. Yanagi, Y.: Nat Commun, 3, 1235, 2012. 2) Shirogane, Y. Hashiguchi, T. Yanagi, Y.: J Virol, 94:(2), e01727-19, 2020.3) Shirogane, Y. Takemoto, R. Suzuki, T. Kameda, T. Nakashima, K. Hashiguchi, T. Yanagi, Y.: J Virol, 95:(14), e0052821, 2021.4) Shirogane, Y. Harada, H. Hirai, Y. Takemoto, R. Suzuki, T. Hashiguchi, T. Yanagi, Y.: Sci Adv, 9:(4), eadf3731, 2023.5) Takemoto, R. Hirai, Y. Watanabe, S. Harada, H. Suzuki, T. Hashiguchi, T. Yanagi, Y. Shirogane, Y.: J Virol, 97:(5), e0034023, 2023.5麻疹(ましん、はしか)は、麻疹ウイルスの感染により引き起こされる感染症である。非常に高い伝染力と発症率を示し、発症すると高熱と特徴的な皮疹を呈する。また、しばしば肺炎や脳炎などを合併して重症化する。致死率は先進国においては0.1%程度であるが、一部の発展途上国では5%に達することもある。安全で効果的な弱毒生ワクチンが開発されてはいるものの、今なお途上国を中心に流行が続いており、2022年には世界で900万人が罹患し、13万6千人が死亡したと推定されている。我が国においては2015年に排除状態と認定されているが、現在も流行国からの輸入感染症がしばしば問題となる。また、麻疹ウイルスは、急性感染から回復後もまれに脳に持続感染し、数年後に亜急性硬化性全脳炎(SSPE)という致死性の脳炎を引き起こす。不思議なことに、本来、野生型の麻疹ウイルスは、中枢神経系で増殖する能力を持たない(前述の急性期に合併する脳炎は、自己免疫学的機序によるものと考えられている)。したがって、この病気は、本来神経系で増殖できない麻疹ウイルスが、患者の脳内で変異して進化するために起こる。私たちはそのメカニズムの解明に取り組んでいる。麻疹ウイルスは、脂質二重膜を持つエンベロープウイルスであり、自身の膜と宿主細胞の膜を融合させるための融合遺伝子を持っている。私たちは、SSPEにおいて、麻疹ウイルスが融合遺伝子に変異を獲得し、新たな宿主因子を利用して神経細胞同士を融合させ、ウイルスゲノムを細胞から細胞へ直接伝播させていることを明らかにしてきた1)-5)。本発表では、この進化メカニズムに関する最新の研究成果を紹介し、それを基に、ウイルス(特にエンベロープウイルス)の持つ多様な進化ポテンシャルについて議論したい。3. 麻疹ウイルス亜急性硬化性全脳炎(SSPE)研究から浮かび上がる  ウイルス進化のダイバーシティ

元のページ  ../index.html#8

このブックを見る