第44回 阿蘇シンポジウム抄録集 2024
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佐藤 賢文熊本大学 ヒトレトロウイルス学共同研究センター1) Satou, Y. et al.: PNAS, 103: 720-725, 2006.2) Satou, Y. et al.: PLoS Pathogens, 7: e1001274, 2011.3) Satou, Y. et al,: PNAS, 113: 3054-59, 2016.4) Matsuo, M. et al.: Nat Commun, 13:(1):2405, 2022.5) Tan, B. et al, JCI,: 131:(24):e150472, 2021.1日本のHTLV-1感染者はその大部分(約95%)は無症候性キャリアであるが、約5%の感染者で極めて予後不良な感染細胞のがんである成人T細胞白血病(ATL)、また約0.5%の感染者で難病HTLV-1脊髄症(HAM)を発症する。HTLV-1は同じレトロウイルスであるHIV-1と、ウイルスゲノムサイズ、プロウイルス構造など類似点が多いものの、ウイルス感染動態には大きな違いがある。HIV-1は高いウイルス産生性を示し、標的細胞であるCD4+細胞の減少が進行して、後天性免疫不全症エイズを発症する一方で、HTLV-1感染者は抗レトロウイルス療法を必要とせず、血中ウイルス量が検出限界以下となることがほとんどである。しかし、HTLV-1は感染細胞をクローン性に増殖させる特性をもっており、そのことが感染細胞癌化に関与するとされる。これまでの研究で、感染者血液中感染細胞では、宿主ゲノムに組み込まれたプロウイルスからのセンス向きの転写は抑制され潜伏状態が維持されているものの、アンチセンセス向きの転写は維持されており、それが感染細胞の増殖や病原性に寄与することを報告してきた1),2)。また、最近の潜伏感染の分子メカニズムに関する研究で、HTLV-1が約9,000塩基という小さいゲノムに、エンハンサー、インスレーターなど転写制御領域があり、宿主因子をリクルートすることで持続潜伏感染を可能にしていることを報告した3),4)。さらに、シングルセル解析を活用することで、HTLV-1によるT細胞腫瘍化プロセスの一端が明らかにしてきた(右図)5)。本講演ではこれらHTLV-1感染症に関する研究を紹介し、同感染症の理解を深める機会になれば幸いである。1. HTLV-1による持続潜伏感染および病原性発現メカニズム

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