第44回 阿蘇シンポジウム抄録集 2024
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松岡 悠美大阪大学 免疫学フロンティア研究センター11Staphylococcus aureusは、自然界に広く分布しており、ヒトの皮膚や鼻腔、腸内などにも常在している。一方、S. aureusはヒトの常在細菌叢として存在する反面、様々な細菌感染症、食中毒、慢性炎症性皮膚疾患であるアトピー性皮膚炎の病態にも関与する。アトピー性皮膚炎は、皮膚バリア破綻、Th2免疫、環境因子が相互作用し病態が形成されるが、S. aureusは環境因子の1つとして、Agrクオラムセンシング下流の毒素を介して皮膚炎の発症・増悪に関与する。また、乳児皮膚から経時的にS. aureusを単離し全ゲノム解析を行うことにより、アトピー性皮膚炎をその後に発症する乳児皮膚では、Agrクオラムセンシングの遺伝子領域が変異を起こさずに機能が保存され、一方健康な乳児の皮膚ではこの領域に機能喪失型の変異が誘導され、排除されることが明らかとなった。一方、院内感染で問題になるMethicillin-resistant S. aureus (MRSA)ではAgrクオラムセンシング発現陰性株が多く検出されることが報告されている。院内定着株のサブクローン解析を行うと、ゲノム変異に依存しないAgrクオラムセンシングをリバーシブルに陰性化できるサブクローンが定着することがわかった。サブクローンレベルの遺伝子変化の解析には、ショートリードに加え、ロングリードのゲノム解析を行う必要があり、また、変異以外の解析法としてはゲノムメチル化解析などが重要であった。異なるヒト環境へのS. aureusの適応形態について、我々の解析例を解説する。6. 黄色ブドウ球菌のゲノム解析と表現型解析による新たな進化メカニズム同定

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