石野 智子東京医科歯科大学 寄生虫学・熱帯医学分野1) Ishino, T. Yano, K. Chinzei, Y. Yuda, M.: PLoS Biol., 2:(1), E4, 2004.2) Ishino, T. Murata, E. Tokunaga, N. Baba, M. Tachibana, M. Thongkukiatkul, A. Tsuboi, T. Torii, M.: Cell Microbiol., 21:(1), e12964, 2019.3) Baba, M. Nozaki, M. Tachibana, M. Tsuboi, T. Torii, M. Ishino, T.: mSphere., 8:(4), e0058722, 2023.4) Aliprandini, E. Tavares, J. Panatieri, R.H. Thiberge, S. Yamamoto, M.M. Silvie, O. Ishino, T. Yuda, M. Dartevelle, S. Traincard, F. Boscardin, S.B. Amino, R.: Nat Microbiol., 3:(11), 1224-1233, 2018.5) Huang, W.C. Mabrouk, M.T. Zhou, L. Baba, M. Tachibana, M. Torii, M. Takashima, E. Locke E, Plieskatt, J. King, C.R. Coelho, C.H. Duffy, P.E. Long, C. Tsuboi, T. Miura, K. Wu, Y. Ishino, T. Lovell, J.F.: Commun Biol., 5:(1), 773, 2022. 7マラリアは現在でも世界で2億人が感染し、約60万人が亡くなる寄生虫疾患である。マラリア原虫スポロゾイトは、感染蚊の吸血によってヒトの皮内に打ち込まれ、血流を介して最初に肝細胞に感染する。肝細胞内で数十万倍に増殖した後に分化したメロゾイトは、赤血球に感染し、高熱や昏睡などの症状を引き起こす。従って、スポロゾイトの肝細胞寄生はヒトへの感染成立段階であり、感染阻止ワクチンの標的として注目されている。一方で、初のマラリアワクチンRTS,Sの使用拡大に伴い、感染流行地の致死率が13%程度しか減少しないという報告から、その改良が喫緊の課題となっている。私たちは、ネズミマラリア原虫をモデルとして用い、スポロゾイトの肝細胞寄生の分子基盤の解明を目指して研究を進めてきた。スポロゾイト特異的に発現する分泌型膜障害タンパク質の同定および機能解析から、皮膚から肝細胞へのスポロゾイトの移動経路とメカニズムを明らかにした1)。肝細胞に侵入する際には、赤血球感染時と共通の分子群が重要な役割を担うことを示し、感染機構の一部はステージ間、さらには種間においても保存されている可能性を提唱した2) ,3)。現在は、感染関連原虫分子と相互作用する原虫、および宿主細胞分子を同定することで、寄生戦略を包括的に理解することを目指している。加えて、皮内を移動中のスポロゾイトが感染阻害抗体の良い標的であるという報告4)に基づき、新規阻害抗体の探索のための評価系を確立した。また、原虫生活環のうち異なるステップを同時に阻害する複合ワクチンの開発について検証した5)。ゲノム編集法を活用し、臨床試験前に標的分子の遺伝子多型の影響を評価するなど、ワクチン開発を加速するための方法論についても合わせて議論したい。4. マラリア原虫の感染機構の解明とワクチン開発に向けた展開
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