第43回 阿蘇シンポジウム抄録集 2023
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1) Inoue, T. et al.: J Hepatol. 75:(2), :302-310, 2021.2) Watanabe, T. et al. Microorganisms, 9:(10):2083, 2021.3) Higashi-Kuwata, N., et al.: J Hepatol., 74:(5):1075-1086, 2021.4) Yuen, M. F. et al.: N Engl J Med. 387:(21):1957-1968, 2022. 田中 靖人熊本大学 大学院生命科学研究部 消化器内科学講座10. B型肝炎創薬研究の現状と臨床応用への展開B型肝炎ウイルス(hepatitis B virus:HBV)感染者数は全世界で2億9600万人程度存在し、わが国の感染率は約1%程度で、約100万人以上のHBV感染者がいると推定されている(図1)。HBV感染症は、急性感染のみならず、持続感染(キャリア)となることが特徴であり、慢性肝炎から肝硬変、肝細胞癌へと進展する。現在、B型慢性肝炎の治療には核酸アナログ製剤(NA)およびペグインターフェロン製剤(PEG-IFN)が用いられている。しかし、最も使用されるNAではHBs抗原(HBsAg)が低下しないため、既存の治療法のみで機能的治癒(Functional cure)を達成できる確率は低い。そのため、機能的治癒を目指したHBV感染症新規治療薬の開発が精力的に行われている。HBVゲノムは肝細胞核内ではcccDNAとして存在し、そこからPregenomic RNAとして機能する3.5kb mRNAに加え、HBsタンパクをコードする2.4kb、2.1kb mRNA、さらにHBxタンパクをコードする0.7kb mRNAが転写される。図2に示すようにウイルス自体を標的としたDirect-acting antiviral agents(DAAs)と免疫を含む宿主因子を標的としたHost-targeting antiviral agents(HTAs)の2つのストラテジーがあり、HBV感染症治癒の究極的目標である肝細胞内の残存cccDNAの排除を目指している。ウイルスを標的としたDAA治療法として、①HBV侵入阻害剤、②cccDNA標的薬、③ウイルスRNA阻害薬、④キャプシド(コア蛋白)集合阻害薬、⑤新規逆転写酵素阻害薬、⑥HBs抗原分泌阻害薬などが開発中である。特に、HBV RNA阻害薬であるsmall interfering RNA(siRNA)やアンチセンスオリゴヌクレオチド(Anti-sense Oligonucleotide; ASO)の開発が進んでいる。また、新たな薬剤クラスとして③RNA結合蛋白阻害剤(RNA destabilizer)が開発中である。これらはHBs抗原の産生を抑え、疲弊した宿主免疫反応の回復に寄与することで機能的治癒を目指す。本講演では、新規RNA阻害剤の作用機序、および開発治験が進行中の新しい治療薬について概説する。19

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