1) Kaneko, R. et al.: Inflamm Regen, 43, 20, 2023.2) Yamamoto, S. et al.: Front Immunol, 13,960036, 2022.3) Ito, M. et al.: Nature, 565:(7738), 246-250, 2019.伊藤 美菜子九州大学 生体防御医学研究所 アレルギー防御学分野7. 中枢神経系疾患における脳内免疫細胞の意義近年、神経系と免疫系の連関が注目されている。多発性硬化症や抗NMDA受容体抗体脳炎などの自己免疫性疾患はもちろんのこと、パーキンソン病やアルツハイマー病などの神経変性疾患に加え、自閉スペクトラム症や統合失調症などの精神疾患の病態においても免疫系の関与が強く示唆されはじめている。我々は中大脳動脈閉塞モデルという脳梗塞マウスモデルを用いて、脳梗塞後急性期から慢性期にかけての免疫応答の意義について研究を行っている。発症後急性期にはマクロファージや γδT細胞を中心とした自然免疫関連炎症が脳内炎症の主役であること、また慢性期には多量のT細胞が浸潤しており極めて特殊な様相を示すことを見出した。特に制御性T細胞(Treg)が脳特異的な性質を獲得することでミクログリアやアストロサイトの過剰な活性化を制御して神経症状の回復に寄与することを明らかにしてきた。脳梗塞慢性期には末梢血中でもTregが増加しており、脳梗塞の再発時はTregの増加と炎症抑制が認められ、脳梗塞が軽減することが分かった。初発時と再発時には同じT細胞受容体をもつTregが浸潤しやすいことから、一度抗原を認識したTregが再活性化して速やかに応答する可能性が示唆された。また、脳梗塞慢性期に脳内や末梢血で上昇するもう一つの抑制性因子としてオキシトシンを同定した。オキシトシンは脳梗塞の軽減をもたらし、オキシトシン受容体のアンタゴニストは脳梗塞慢性期の神経症状の回復を遅らせたため、脳梗塞時の炎症抑制と組織修復にオキシトシンが重要である可能性が示唆された。本講演では、以上の脳梗塞モデルを用いた研究内容と、アルツハイマー病、自閉スペクトラム症などの様々な中枢神経系疾患における免疫細胞の解析結果について紹介したい。13
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