第42回 阿蘇シンポジウム抄録集 2022
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荒瀬 尚大阪大学 微生物病研究所 免疫化学分野大阪大学 免疫学フロンティア研究センター 免疫化学研究室1) Liu, Y. et al.: The SARS-CoV-2 Delta variant is poised to acquire complete resistance to wild-type spike vaccines bioRxiv, 2021. https://doi.org/10.1101/2021.08.22.4571142) Liu, Y. et al.: An infectivity-enhancing site on the SARS-CoV-2 spike protein targeted by antibodies. Cell, 184:(13), 3452-3466, 2021.3) Soh, WT. et al.: The N-terminal domain of spike glycoprotein mediates SARS-CoV-2 infection by associating with L-SIGN and DC-SIGN. bioRxiv, 2020. https://doi.org/10.1101/2020.11.05.3692644) Saito, F. et al.: Immune evasion of Plasmodium falciparum by RIFIN via inhibitory receptors. Nature, 552:(7683), 101-105, 2017.5) Hirayasu, K. et al.: Microbially cleaved immunoglobulins are sensed by the innate immune receptor LILRA2. Nature Microbiology, 1:(6), 16054, 2016.3. 新型コロナウイルス感染症における宿主病原体相互作用新型コロナウイルスはスパイクタンパク質の受容体結合部位(RBD)が宿主細胞の発現しているACE2に結合することで細胞に感染する。従って、RBDに対する抗体は中和抗体として感染防御に重要な機能を担っている。一方、スパイクタンパク質の他の領域に対する抗体の機能は十分明らかになっていない。そこで、我々は新型コロナウイルス感染患者由来のモノクローナル抗体を作成して、スパイクタンパク質の様々な部位に対する抗体の機能を解析した。その結果、スパイクタンパク質のN末領域(NTD)に対する抗体の中に新型コロナウイルスの感染性を高める抗体が存在することが判明した。さらに、感染増強抗体の存在下では中和抗体の作用が減弱した。これらの感染増強抗体の認識部位を解析するとNTDの特定の部位を認識することが判明した。さらに、感染増強抗体がスパイクタンパク質に与える影響を解析すると、スパイクタンパク質に感染増強抗体が結合すると、スパイクタンパク質の構造変化が引き起こされ、その結果ACE2への結合性が高くなることが判明した。以上より、新型コロナウイルスに感染すると中和抗体ばかりでなく、ウイルスに直接作用して感染性を高める感染増強抗体が産生される。一方、NTDと宿主分子との相互作用を解析するために、NTD結合分子をスクリーニングしたところ、NTD結合分子としてL-SIGNが同定された。実際、L-SIGN発現細胞に対して、新型コロナウイルスは高い感染性を示すことが判明した。以上より、NTDは抗体や宿主分子と相互作用することでRBDの制御領域として重要な機能を担っていることが判明した。 5

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