河本 宏京都大学 医生物学研究所 再生免疫学分野藤田医科大学 国際再生医療センター 免疫再生医学研究部門1) Vizcardo, R., Masuda, K., and Kawamoto, H. et al.: Cell Stem Cell, 12:(1), 31-36, 2013.2) Maeda, T., Nagano, S., and Kawamoto, H. et al.: Cancer Research, 76:(23), 6839-6850, 2016.3) Maeda, T., Nagano, S., and Kawamoto, H. et al.: Mol Ther Methods Clin Dev, 19, 250-260, 2020.4) Tawara, I., Kageyama, S., and Shiku, H. et al.: Blood, 130:(18), 1985-1994, 2017.5) Kashima, S., Maeda, T., and Kawamoto, H. et al.: iScience, 23:(4), 100998, 2020.12. iPS 細胞を材料とした即納型汎用性T 細胞製剤の開発 -がんおよびウイルス感染症への応用-T細胞を用いた養子免疫療法は、自家の系で行われているため、高価、時間がかかる、品質が不安定、などの問題点があった(図1左上)。これらの障壁を乗り越えるために、我々はiPS 細胞技術を用いる戦略を進めてきた(図1左下)。まずT細胞からiPS細胞を作製するという方法(T-iPS細胞法)を用いて、MART-1抗原特異的T細胞の再生に成功し1)、その後高品質な細胞傷害性T細胞(CTL)の分化誘導に成功した2)。次に特定のTCR遺伝子をiPS細胞に導入する方法(TCR-iPS細胞法)を開発した3)。臨床応用に向けての開発では、TCR-iPS細胞法を用いている。iPS細胞としてはCiRA-Fが提供する最頻HLAホモ株を用い、TCRとしては臨床試験で安全性と一定の有効性が示されているWT1抗原特異的TCR4)を用いる事にした。再生WT1-CTLは腎細胞がんの患者由来ゼノグラフトモデルで腫瘍の増殖を抑制した(図1右)5)。現在、この再生WT1-CTLを用いて急性骨髄性白血病を対象にした治験の準備を京大病院と共同で進めている。一方でTCR-iPS細胞法の改良に取り組んでいる。上記のTCR-iPS細胞法ではレンチウイルスを用いているが、ゲノムを傷つける危険性や、挿入遺伝子の発現が不安定という問題点があった。そこで、まずカセットデッキ構造をTCR遺伝子座に挿入し、後にカセットテープとして外来TCR 遺伝子を挿入する方法を開発した(図2)。カセットデッキの挿入にはゲノム編集法、カセットテープの交換にはCre-lox系を用いた。こうして作製したCTLは、抗原特異的な細胞傷害活性を示した。TCR-iPS細胞法はウイルス感染症にも使えると考え、COVID-19および造血幹細胞移植後のCMV再活性化に対するT細胞製剤の開発を、藤田医科大学で開始した。現在、日本人で頻度の高いHLAに拘束性であるウイルス特異的TCRのクローニングを進めている。23
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