第42回 阿蘇シンポジウム抄録集 2022
22/31

前田 高宏九州大学 大学院医学研究院 プレシジョン医療学10. ゲノム医療の実装と治療への展開  1 : 血液/がん造血器腫瘍臨床におけるゲノム医療の歴史は長く、染色体検査、FISH法、PCR法を駆使したがん遺伝子の診断や微小残存病変(MRD: minimal/measurable residual disease)の評価は、30年以上前から実践されてきた。なかでも、慢性骨髄性白血病 (CML)におけるBCR::ABL1キメラ遺伝子の発見とその後のABLキナーゼ阻害剤の開発、急性前骨髄球性白血病(APL)におけるPML::RARAキメラ遺伝子の同定とレチノイン酸治療の確立は、ともに患者予後の劇的な改善につながったことから、ゲノム医療の歴史的な成功例といえる。固形がん分野においては、がんの発症・進展に関連した数百の遺伝子を網羅的に解析する、いわゆる「がん遺伝子パネル検査(以下パネル検査)」が近年保険適用となり、主に薬剤の適応決定を目的に、すでに臨床実装されている。一方で、2022年6月現在、造血器腫瘍を対象としたパネル検査は、一部の施設における研究目的での使用に限られており、保険診療下での実用化には至っていない。固形がんと造血器腫瘍では、変異をきたす遺伝子の種類が異なるだけでなく、化学療法、放射線療法に加えて、抗体療法、細胞免疫療法、造血幹細胞移植法と治療法が多岐にわたるため、がんゲノム情報の活用法・使用目的が固形がんのそれとはおおきく異なる。特に、造血幹細胞移植法は、疾患の治癒が期待できる一方で、治療関連死や移植片対宿主病(GVHD)等の合併症の危険性をはらむため、どの患者に、どのような前処置・免疫抑制治療で、どのタイミングで移植治療を選択すべきかを判断する際に、ゲノム情報に基づいた予後予測、適応決定が重要である。また、疾患特異性が高いゲノム異常も数多く同定され、従来の病理学的診断に加えてゲノム情報を活用することにより、より精緻な診断が可能となった。すなわち、造血器腫瘍臨床においては、ゲノム情報の活用が治療薬適応の決定にとどまらず、「診断」、「予後予測」、「治療法選択」のすべての局面において有用である。本講演では、造血器腫瘍臨床におけるパネル検査の活用法や臨床実装に向けての課題について概説する。19

元のページ  ../index.html#22

このブックを見る