高田 穣京都大学 大学院生命科学研究科 ゲノム損傷応答学附属放射線生物研究センター 晩発効果研究部門 DNA損傷シグナル研究分野1) Okamoto, Y., Takata, M. et al.: Nucleic Acids Res, 46:(6), 2932-2944, 2018.2) Okamoto, Y., Takata, M. et al.: Blood, 137:(3), 336-348, 2021.3) Dingler, FA., Mu, A., Takata, M., and, Patel, KJ. et al.: Mol Cell, 80:(6), 996-1012, e9, 2020.4) Mu, A., Takata, M. et al.: Blood, 137:(15), 2021-2032, 2021.9. 複製ストレス応答とヒト疾患メカニズム複製ストレス(RS)とは、外因性・内因性のDNA損傷、DNA二次構造、複製と転写の競合・衝突、複製開始制御の異常など、様々な理由で細胞がDNA複製に支障をきたす状態のことである。このようなRSを処理する細胞プロセスが、ゲノム維持に大きな役割を演じ、発がんを始めとしたヒト疾病に関与していることが近年注目を集めている。私たちは、ゲノムの安定性が損なわれ、造血幹細胞が減少し、固形腫瘍や白血病を発症するファンコニー貧血(FA)を主要な対象として研究してきた。FAの原因遺伝子は家族性乳がん遺伝子BRCA1/2を含めて22を数え、これら遺伝子の形成するFA経路は、相同組換えを含むDNA修復経路の制御や、停止した複製フォークを安定化することでRSに対抗すると理解されている。本講演では、RS関連のヒト疾患として、まずFAの病態について解説し、続いて我々が最近報告したFAに類似した新しい骨髄不全症であるアルデヒド分解欠損(ADD)症候群を紹介する。ADDSは、ADH5とALDH2の複合変異によるホルムアルデヒドの異化作用の喪失によって引き起こされ、FAの幹細胞障害におけるホルムアルデヒドの重要な役割が強く示唆される。さらに、最近我々はDNA損傷を惹起して抗がん作用を示す化学療法に対する感受性を決定する遺伝子SLFN11が、RS応答メカニズムとFAの病態に重要な役割を演ずることを明らかにした。最後に、SLFN11とそのファミリー分子に関連する分子機構について、我々の解析結果を紹介したい。17
元のページ ../index.html#20