第42回 阿蘇シンポジウム抄録集 2022
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高橋 宜聖国立感染症研究所 治療薬・ワクチン開発研究センター1) Takano, T. et al.: Cell Rep Med, 3:(5), 100631, 2022.2) Miyamoto, S. et al.: Med (NY), 3:(4), 249-261, e4, 2022.3) Kotaki, R. et al.: Sci Immunol, 7:(70), eabn8590, 2022.4) Onodera, T. et al.: Immunity, 54:(10), 2385-2398, e10, 2021.5) Moriyama, S. et al.: Immunity, 54:(8), 1841-1852, e4, 2021.4. ワクチン有効性・安全性の基盤となる免疫応答COVID-19に対するワクチンは、mRNAやウイルスベクター等の新規モダリティーを中心として未曾有のスピードで研究開発が進んできた。その結果、国内でも2021年2月から医療従事者への接種が開始され、2022年5月末の時点で半数以上の方が3回目接種を受けた状況にある。国内で接種が進んだmRNAワクチンは、当初約95%の良好な有効性を示すことが確認され強力な免疫応答を誘導していると考えられた。実際、mRNAワクチンの2回接種者では、感染回復者よりも高値の中和抗体が血液中に誘導され、細胞性免疫も活性化している。これら獲得免疫の賦活化により、mRNAワクチンによるデルタ株等への発症予防効果は数ヶ月以上高いレベルで維持されることも臨床データから確認されている。しかしながら、スパイクタンパクのレセプター結合部位に多数の変異を有するオミクロン株が出現し、状況が大きく変化した。現行のmRNAワクチンは武漢株スパイクタンパクをベースにしていることから、オミクロン株はワクチン接種者の中和抗体から著しい逃避能を有することが明らかとなり、ワクチン予防効果も大きく低下することが確認された。ただし、武漢型ワクチンで3回目接種を行うと、単に中和抗体の量が増加するだけでなく抗体の広域性が広がること、そしてオミクロン株への交差中和活性が顕著に増加する現象が確認された。この現象は、抗体の中和活性と交差性という、これまでトレードオフの関係にあると思われていた抗体パラメーターが同時に向上することに起因しており、「抗体の進化」と呼ばれることがある。この抗体の進化を理解することは、今後のワクチン戦略を考える上で重要な情報となる可能性がある。本シンポジウムでは、mRNAワクチンを繰り返し接種することで起こる抗体の進化現象の基盤となる免疫応答を紹介する。加えて、mRNAワクチン接種者でなぜ副反応が高頻度で起きるのか、副反応の基盤となる免疫応答の動きも合わせて紹介したい。7

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