第41回 阿蘇シンポジウム抄録集 2021
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林 哲也九州大学 大学院医学研究院 細菌学分野2)Nakamura,K.etal.:Microb.Genom.,6:(1),e000323,2020.3)Nakamura,K.etal.:PLoSPathog.,17:(4),e1009073,2021.4)Arimizu,Y.etal.:GenomeRes.,29:(9),1495-1505,2019.5)Akter,A.etal.:GenomeBiol.Evo.,9:(1),124-133,2017.1990年代前半から始まった細菌のゲノム解析は、2005年頃から登場した次世代シーケンサ(NGS)により大きく加速・変化し、最近ではロングリードシーケンサの登場により、ドラフトゲノムだけでなく全長配列の取得も容易になってきた。また、大量の配列データを解析するためのプログラムも次々と開発されている。これらの技術革新により、以前は実施困難であった解析、例えば、代表菌株のみに限られていたゲノム解析から、多数の菌株を網羅した解析が可能になり、種や血清型などの集団構造に基づいて進化多様化の実態を解明することが可能となった。そのほか、基礎データがほとんど無いような菌に対して、まずゲノム配列を取得してから研究戦略を考えるといったアプローチ、集団感染事例のゲノム解析による高精度分子疫学解析(菌の伝播経路の同定)、メタゲノム解析による細菌集団の菌種・遺伝子組成の解析や集団内の難培養菌のゲノム配列決定、RNA-seq、ChIP-seq等による機能などの解析などが可能となった。本講演では、こういった解析のうち、大規模ゲノム比較による病原細菌の進化・多様化の解析について、我々の研究成果を紹介したい。具体的には、腸管出血性大腸菌(EHEC)を例として、キャピラリーシーケンサの時代の研究の流れを簡単に紹介したうえで、グローバルな集団構造を基づいた種や血清型レベルでの進化多様化の実態、特にファージなどの獲得による潜在的病原性のダイナミックな変化について紹介する1)-4)。また、時間が許せば、リケッチア(ダニ媒介性の偏性細胞内寄生菌)のように生息環境・生活環が大きく異なる細菌の対照的なゲノム多様化パターン(多様性が驚くほど低い)についても簡単に紹介できればと考えている5)。本講演を通じて、大きく変化している細菌ゲノム解析の一端を理解していただければ幸いである。 1)Ogura,Y.etal.:Microb.Genom.,3:(11),e000141,2017.53. NGSの活用によって進展する細菌ゲノムの進化・多様性解析

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