朝長 啓造京都大学 ウイルス・再生医科学研究所 RNAウイルス分野1)Kojima,S.etal.:ProcNatlAcadSciUSA,118:(5),e2010758118,2021.2)Kawasaki,Jet.al.:ProcNatlAcadSciUSA,118:(20),e2026235118,2021.3)Fujino,K.etal.:ProcNatlAcadSciUSA,111:(36),13175-13180,2014.4)Matsumoto,Y.etal.:CellHostMicrobe,11:(5),492-503,2012.5)Horie,M.etal.:Nature,463:(7277),84-87,2010.ボルナ病ウイルス(Borna disease virus 1: BoDV-1)は、ヨーロッパ中東部においてウマで発生する脳脊髄炎(ボルナ病)の原因ウイルスとして同定された一本鎖マイナス鎖のRNAウイルスである。BoDV-1は、従来、ヒトに病原性を示さないと考えられてきたが、近年、BoDV-1感染による致死性脳炎が相次いで報告されている。また、BoDV-1と近縁で、高い致死性を示すリス由来の高病原性ボルナウイルス(Variegated Squirrel Bornavirus 1: VSBV-1)のヒトへの感染も確認され、ボルナウイルスが病原因子としてヒト社会に浸透していたことが示されるようになった。さらに最新の報告で、多くの人獣共通感染ウイルスのリザーバーとなっているコウモリやげっ歯類において、未知のボルナウイルスが数多く存在していることも示唆されている。社会的対応の重要性が増してきているボルナウイルス感染症であるが、いまだ希少感染症であり、その研究はほとんど行われていないのが現状である。私たちは、ボルナウイルスの理解とボルナウイルス感染症の克服を目指して、継続した研究を行ってきた。これまでに、中枢神経系への病原性や宿主染色体を利用した持続感染の仕組みなど、他のRNAウイルスでは見られない感染現象を明らかにし、新たなウイルス学を探究してきた。また、太古のボルナウイルスに由来する遺伝配列(Endogenous bornavirus-like elements: EBLs)が、ヒトをはじめ様々な動物のゲノムに内在化していることを発見し、宿主内で機能性因子として進化してきたことを報告してきた。本シンポジウムでは、ボルナウイルスに特徴的な核内持続感染の仕組みに加え、太古からの内在化が明らかにするウイルス共進化など、希少感染症の探求から生まれたネオウイルス学について紹介する。32. 希少感染症から探究するネオウイルス学
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