第41回 阿蘇シンポジウム抄録集 2021
24/33

西村 秀一国立病院機構 仙台医療センター 臨床研究部ウイルスセンターCOVID19パンデミックをきっかけとした研究の中での大きな成果のひとつに、演者は感染経路としての、空気感染/エアロゾル感染に対して感染制御という社会の中で市民権を与えたことを挙げたい。当初、ウイルスで汚染された物体の表面に触れた手や指を介した接触感染や、感染者から排出直後に落下するような大飛沫による感染が、経路として主流とされ、空気感染などと言おうものならメディア頻出の「専門家」に鼻で笑われていた。しかし、それこそエビデンスのない誤ったイメージだけの解釈であり、次々と明らかになる大規模クラスターにおける感染事例から、空気/エアロゾル感染の大事さが明らかにされてきた。そもそもこの感染様式はCOVID19に限ったものではなく、インフルエンザでも大事さが言われ続けてきたものであり、たぶん呼吸器系ウイルス感染症の多くがこの感染様式を含むものと考えるべきであろう。空気感染/エアロゾル感染を無視してきた原因は、感染制御「専門家」たちの、用語の定義のあいまいさにあった。空気感染は、血液媒介感染、昆虫媒介感染と同じものの捉え方をすれば、空気媒介感染である。空気が病原体ではない。そしてエアロゾルは、空中に浮遊する粒子のすべてである。その中に活性を持つウイルスが含まれ、空気とともに生体に吸い込まれて感染するのであればエアロゾル感染である。すなわち、媒介物に注目すればエアロゾル感染である。空気感染に距離や時間の尺度はなく、またエアロゾル感染も、空気に粒子が浮いている限り、また水分を粒子が含んでも含まなくても、エアロゾル感染である。そしてそれらはウイルスを排出する感染者に近ければ近いほど起きやすく、離れれば離れるほど起きにくくて当然であり、狭い閉鎖空間に長時間いれば、病原体が蓄積しやすく空間に感染リスクをもたらしやすい。この理屈がわからないと、いつまでも「特別な場合以外空気感染はない」とか「エアロゾル感染は、特殊な手技の時だけ起きる」などという誤った考え方から離れられず、結果とした感染対策を誤った方向にもっていくことになり、それがこれまでの経過でもある。空気感染を真摯に捉えないと、冬に経験したような制御すべき相手の見えない大きな院内感染の悲劇はこれからも続く。逆に言えば、このポイントを抑えればCOVID19といえど理屈で立ち向かうことができるのである。われわれは、15年ほど前にインフルエンザウイルスを使ってエアロゾルに載った空中浮遊ウイルスを対象に、それらを回収し定量する系をたちあげ、それらの性質を研究し、さらにはそれらを制御するためのさまざまな介入方法の研究を民間企業との共同研究のかたちで進めてきた。また、それに加え、そうしたエアロゾルそのものの解析も行ってきた。われわれの研究の特徴は工学的要素と、ウイルス学的要素が入り混じったアプローチの仕方である。そして今、それは対象を、ヒト・コロナウイルス(ただしSARS-CoVではない)をも対象に加えて研究を進めている。本講演では、その概要と成果についてお話しできたらと思う。2111. エアロゾルが関与するウイルス伝搬の制御に向けた基礎的・実用的研究

元のページ  ../index.html#24

このブックを見る