橋口 隆生京都大学 ウイルス・再生医科学研究所 ウイルス制御分野1)Onodera,T.etal.:BroadNeutralizationActivityofSARS-CoV-2AntibodyisAchievedbyCoordinatedRecognitionofVirusVulnerableSite.Immunity,inpress,2021.2)Kaku,Y.etal.:ResistanceofSARS-CoV-2variantstoneutralizationbyantibodiesinducedinconvalescentpatientswithCOVID-19.CellReports,36:(2),109385.2021.3)Ohashi,H.etal.:Potentialanti-COVID-19agents,cepharanthineandnelfinavir,andtheirusageforcombinationtreatment.iScience,24:(4),102367,2021.4)Tomita,Y.etal.:ThephysiologicalTMPRSS2inhibitorHAI-2alleviatesSARS-CoV-2infection.JVirol.,95:(12),e00434-21,2021.SARS-CoV-2は、ウイルス粒子表面にSpike(S)蛋白質を保持しており、S蛋白質は三量体の糖蛋白質で、S1とS2の2つのサブユニットからなり、furin開裂部位で分離される。S1サブユニットには、N末端ドメイン(NTD)、受容体結合ドメイン(RBD)、および2つのサブドメイン(SD1、SD2)が含まれる。RBDは中和抗体の主要な標的である。S2サブユニットにはプロテアーゼTMPRSS2の開裂部位(S2')があり、その直後に膜融合時に標的細胞膜へと突き刺さる機能を持つfusion peptide(FP)がある。SARS-CoV-2の細胞侵入時には、S1サブユニット内に存在するRBDが細胞表面にあるアンジオテンシン変換酵素2(ACE2)を認識し結合することによりウイルスを宿主細胞に吸着させる。この受容体結合をきっかけとしてS蛋白質に構造変化が生じることで、膜融合能を担うS2サブユニットがさらに連続的な構造変化を起こしてウイルスは細胞内に侵入する。他のコロナウイルスでもS蛋白質が免疫抗原として、我々の免疫系に認識されることで効果的な獲得免疫が誘導される。すなわち、S蛋白質はコロナウイルスに対するワクチン開発や免疫応答解析にとって最も重要なウイルス蛋白質となる。また、ウイルスの複製過程ではメインプロテアーゼ(Mpro)やRNA依存性RNAポリメラーゼ(RdRp)等が治療薬開発の主な標的となる。我々はS蛋白質を中心にワクチン開発や免疫解析・創薬研究・構造解析等に活用できる高次構造を保持したヒトコロナウイルス(SARS-CoV-1, MERS-CoV, SARS-CoV2, HCoV-229E, HCoV-NL63, HCoV-OC43, HCoV-HKU1)精製蛋白質および関連する宿主蛋白質を大量かつ高純度に発現・精製する系を構築した(図)。本発表では、得られた精製蛋白質の性状や構造、及び、これらの精製蛋白質を活用したワクチン開発や免疫解析・創薬(化合物・既存薬・ペプチド・抗体医薬)研究・構造解析について、関連する最新の知見と合わせてご紹介させていただく。137. コロナウイルス研究のための蛋白質科学プラットフォームの構築
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