第41回 阿蘇シンポジウム抄録集 2021
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赤池 孝章東北大学 大学院医学系研究科 環境医学分野Ida,T.,Akaike,T.etal.:PNAS,111:(21),7606-7611,2014.近年、システインパースルフィド(cysteine persulfide)などの超硫黄分子が生体内で大量に合成され、多彩な生理機能を発揮していることが明らかとなった1)-10)。また、タンパク質翻訳酵素の一つであるシステインtRNA合成酵素(cysteinyl-tRNA synthetase, CARS)が新規超硫黄合成酵素(cysteine persulfide synthase, CPERS)として同定された。CARS/CPERSは、システインを基質に効率よくシステインパースルフィドを生成し、これをtRNAに取込むことで翻訳時にタンパク質を超硫黄化している。この様な超硫黄分子は、細菌・原核細胞から真核細胞・ほ乳類・ヒトまで種横断的、普遍的に産生されており、生物進化的に原核細胞や細菌を起点とした生命に必須の硫黄依存型エネルギー代謝系である硫黄呼吸の主たる担い手として機能している。一方、硫黄呼吸が実際は『超硫黄-酸素・電子転移反応』による膜電位形成に依存した硫黄・酸素ハイブリッド型呼吸であることも示唆されている。さらに最近、生体内の主要な活性酸素産生酵素であるNADPH oxidase(NOX)が、超硫黄分子の活性化に関与していることが明らかになった。すなわち、NOXが、NADPHの電子(プロトン)を、酸素分子(O2)に与える前に超硫黄に供与して、この電子が酸素分子と共役されることで活性酸素が産生されることが分かってきた。興味あることに、NOXとともに感染防御活性を発揮している一酸化窒素合成酵素(nitric oxide synthase, NOS)の酵素反応においても、NADPHから超硫黄への電子転移が起こることから、NOXやNOS、あるいは、ミトコンドリア電子伝達系などの一連のNADPH/NADH依存性酸化還元酵素にあっては、『超硫黄-酸素・電子転移反応』が普遍的な酵素反応機構であると言える。加えて、NOSの感染防御応答において、抗菌活性を発揮する活性分子が、実はNOそのものではなく、NOと超硫黄分子とのキメラ分子であることも明らかにされつつある。また、超硫黄の多様な生理活性が、超硫黄化グルタチオン(glutathione trisulfide, GSSSG)により担われていることも分かっており11)、特に、GSSSGが上記電子転移反応だけでなく、インフラマソームを抑制したり、T細胞受容体のCD3εのCXXC モチーフのレドックス制御を介してT細胞の分化・増殖に関与していることも示されている12)。本講演では、エネルギー代謝と感染防御を起点とする生物種横断的な超硫黄代謝経路とその多彩でユニークな生理機能の発見の経緯を解説することで、超硫黄生物学の革新的なパラダイムによって開拓されつつある生命科学研究の巨大な潮流について紹介する。 1)Nishida,M.,Akaike,T.etal.:NatChemBiol.,8:(8),714-724,2012.2)3)Akaike,T.etal.:NatCommun.,8:(1),1177,2017.4)Khan,S.,Akaike,T.etal.:CellChemBiol.,25:(11),1403-1413.e4,2018.5)Zhang,T.,Akaike,T.etal.:CellChemBiol.,26:(5),686-698.e4,2019.6)Rudyk,O.,Akaike,T.etal.:PNAS,116:(26)13016-13025,2019.7)Dóka,É.,Akaike,T.etal.:SciAdv.,6:(1),eaax8358,2020.8)Dóka,É.,Akaike,T.etal.:SciAdv.,7:(17),eabe7006,2021.9)Marutani,E.,Akaike,T.etal.:NatCommun.,12:(1),3108,2021.10)Nagy,P.,Akaike,T.etal.:PNAS.,2021.provisionallyaccepted.11)Sano,H.,Akaike,T.etal.:NatCommun.,underrevision.12)Yamada,M.,Akaike,T.etal.:NatImmunol.,underreview.116. 超硫黄分子による感染免疫制御とエネルギー代謝

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