第41回 阿蘇シンポジウム抄録集 2021
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笠原 敬奈良県立医科大学 感染症センター抄録執筆時点(2021年6月末)で新型コロナウイルス感染症(COVID-19)は概ね第4波の収束を迎えつつあるが、一方で、変異株であるデルタ株への置き換えが急速に進み、また人流が増加していることも相まって、第5波への懸念が高まっている。ワクチン接種もここに来て供給が滞り、職域接種が難しくなる一方で、オリンピック・パラリンピック開催へのカウントダウンが始まっている。我々感染症専門家にとって、「予想」、特に楽観的な予想は意味を持たず、常に「最悪」を想定した準備が求められている。実際この1年間以上に渡る臨床現場の不断の準備によって、奈良県でも第1波の92人から、第4波ではその50倍の4500人以上に対応できるようになった。その一方で、オリンピックまですでに30日を切っている現時点でも、観客を入れるかどうか、入国者への検疫も含めた対応をどうするかなど、日々二転三転している状況である。コロナ禍で最も重要だと感じたのはリーダーシップである。「どこへ向かうのか」さえはっきりさせれば、そのための方策はそれぞれの分野で考えることができるはずだ。しかし日本に限らず、世界中で「どこへ向かうのか」がはっきりと示されず、また1年間ほとんど何の進歩もないのではないかと思われる分野・業界も存在する。感染症はとりあえず待っているだけで自然に通り過ぎてくれるようなものではないことが分かった。今までそんなことはなかったが、これからもそんなことはない、ということも分かった。また仮にCOVID-19が収束しても、次の新興感染症が発生しないという保証はない。「感染症に強い社会」が求められている。「コロナだからできない」から、「コロナでもできる」、そして「コロナ以外の新しい感染症が発生してもできる」ことを増やしていくことが求められている。本講演では講演時点での最新の流行状況や情報を分かりやすくお伝えし、「これから」について皆様と考えたい。95. 新型コロナウイルス感染症のこれまでとこれから

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