第41回 阿蘇シンポジウム抄録集 2021
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木村 宏名古屋大学 大学院医学系研究科 ウイルス学1)Okuno,Y.etal.:NatMicrobiol.,4:(3),404-413,2019.2)Murata,T.eta.l:RevMedVirol.,30:(2),e2095,2020.3)Mabuchi,S.etal.:Cancers,13:(3),561,2021.ヒトでは、Epstein-Barr virus (EBV)をはじめB型・C型肝炎ウイルス(肝がん)、ヒトパピローマウイルス (子宮頸がん)、ヒト成人白血病ウイルス1型など、7種類のがんウイルスが知られている。いずれも宿主であるヒトに100%がんを発生させることはなく、図1 (ウイルス発がんの多段階仮説)に示す様に、ある遺伝的背景を持った個体がウイルス感染した後に、環境因子・加齢が加わり、感染細胞に遺伝子変異が蓄積することでがんが発生すると考えられている。EBVは、ヘルペスウイルス科に属し、全長170kb、約80遺伝子をコードする大型のDNAウイルスである。唾液を介して感染し、成人に至るまでにほぼ95%がEBVに既感染となる。EBVは様々なB細胞性腫瘍(バーキットリンパ腫・EBV陽性びまん性大細胞型B細胞リンパ腫・移植後リンパ増殖症など)およびT/NK細胞性腫瘍(節外性NK/Tリンパ腫・鼻型、慢性活動性EBV感染症)と密接に関連している。しかし、ほとんどの成人に感染している普遍的なEBVが、なぜ一部の個体にのみリンパ腫を生じるのかは、長年の謎であった。近年、子宮頸がん、成人T細胞白血病では、腫瘍組織にて高率に欠失ウイルスが存在することが報告され、腫瘍化との関りが注目を集めている。最近、我々は種々のEBV関連リンパ腫に対して網羅的遺伝子解析を行ったところ、高率にEBV遺伝子の一部が欠失していることを見出した(図1) 1)。興味深いことに、欠失は特定の領域/遺伝子に集中していた。これらEBV遺伝子/領域を欠失した変異ウイルスを再現・作成し、培養細胞を用いたin vitroおよびヒト化マウスを用いたin vivoモデルを用い、欠失が果たす役割について解析した。これまでのところ、いくつかの特定の領域を欠失させると、一部のEBV遺伝子の発現が亢進され、腫瘍原性を高めることにつながるなど、極めて興味深い知見を得ている2),3)。本研究を通して、ウイルスが一部の個体にのみ腫瘍を生じるメカニズムを解明したい。74. ありふれたウイルスが腫瘍を引き起こす謎の解明

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