5■■■■■慶應義塾大学 医学部 微生物学・免疫学教室3. 腸内細菌を標的とする疾患治療ほ乳類の腸管には数百の腸内細菌(マイクロバイオータ)が存在し、宿主の生理機能に深く影響を及ぼしている。従ってマイクロバイオータを人為的に改善することが出来れば、複数の疾患に対する新たな治療戦略となり得る。我々は、消化管の恒常性維持機構を理解すると共に、個々の腸内細菌種が免疫システムにどのように影響を与えているかを還元化して把握して行く独自の研究手法を樹立してきた。この方法によってこれまでに、制御性T細胞、Th17細胞、Th1細胞を特異的に誘導する腸内細菌種の同定に成功した1-4)。本研究では、健康人の便から、IFNγ陽性(+)のCD8 T細胞を誘導する11菌株を単離することに成功した5)。IFNγ+CD8 T細胞は、マウス腸管に多く恒常的に存在しているが、無菌マウスではその数が著減していた。そこで、健常人6名の便をそれぞれ無菌マウスに投与したところ、それぞれの便でIFNγ+CD8 T細胞誘導能が異なることがわかった。そこで最も強力にIFNγ+CD8 T細胞誘導が見られたマウスを選択し、その腸内容物を別の無菌マウスに投与し、異なる抗生物質を投与した。その結果、アンピシリンを投与した際に誘導が増強されることがわかった。再び最も強力にIFNγ+CD8 T細胞誘導が見られたマウスを選択し、腸内容物を培養し、26菌株を単離した。そこからIFNγ+CD8 T細胞誘導能を損なわずに11菌株にまで絞り込むことが出来た。IFNγ+CD8 T細胞は、がん免疫においてエフェクター細胞として働くことが知られている。そこで我々は、同定した11菌株と免疫チェックポイント阻害薬の併用効果を検証した。マウスMC38がん移植モデルを用いた実験では、11菌株投与の抗腫瘍効果は抗PD-1抗体に匹敵するものであり、かつ抗PD-1抗体と11菌株を併用投与すると抗腫瘍効果が増強されることがわかった。こうした11菌株と免疫チェックポイント阻害薬の併用効果は、抗CTL-4抗体との併用や、メラノーマのマウスモデルにおいても確認できた。今後、この11菌株を臨床応用したいと考えている。1) Atarashi, K., et al.: Induction of colonic regulatory T cells by indigenous Clostridium species. Science, ■■■: 337-341, 2011.2) Atarashi, K., et al.: Treg induction by a rationally selected mixture of Clostridia strains from the human microbiota. Nature, ■■■: 232-236, 2013.3) Atarashi, K. et al.: Th17 Cell Induction by Adhesion of Microbes to Intestinal Epithelial Cells. Cell, ■■■: 367-380, 2015.4) Atarashi, K. et al.: Ectopic colonization of oral bacteria in the intestine drives TH1 cell induction and inflammation. Science, ■■■: 359-365, 2017.5) Tanoue T, Morita S. et al.: A defined commensal consortium induces CD8 T cells and anti-cancer immunity. Nature, ■■■: 600-605, 2019.
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