■■■■京都大学 ウイルス・再生医科学研究所 再生免疫学分野2. iPS細胞技術を用いた抗原特異的T細胞の再生−「即納型T細胞製材」の開発−まず再生医療における免疫学的な問題について論じる。再生医療業界ではHLAハプロタイプホモのiPS細胞株を備蓄してヘテロの人に使うという「他家移植」の戦略を軸に進められている(図1)。この戦略の免疫学的な妥当性と、それでも残る問題点について、特にNK細胞が起こしうる拒絶反応について論じ、最近の研究の成果1)を紹介する。 次に我々が取り組んでいるがん免疫療法を紹介する。がんの免疫療法はこの7〜8年で大きく進展した。中でもチェックポイント阻害剤とCAR-T療法が大きな話題になっている。CAR-T療法やTCR遺伝子導入療法などの患者のT細胞を遺伝子改変して再投与する方法では、T細胞がすぐに疲弊してしまうという問題点があった。この障壁を乗り越えるために、我々はiPS 細胞技術を用いた戦略を進めている。抗原特異的T細胞からiPS細胞を作製する(T-iPS細胞)と、T-iPS細胞には再構成されたTCR遺伝子が受け継がれているので、再分化誘導した時には、元のT細胞と同じ特異性をもつT細胞が再生する(図2)。iPS細胞段階でほぼ無限に増やせるので、新鮮なT細胞を必要なだけ得られる。このアイデアに基づいてまずメラノーマ抗原MART-1特異的CTLの再生に成功した2)。さらに最近、高品質なCTLの分化誘導に成功した3)。臨床応用に向けては、特定のTCR遺伝子をiPS細胞に導入することでT-iPS細胞と同様の細胞をつくるという戦略を軸に考えている(TCR-iPS細胞法)。この方法をHLAホモiPS細胞株に利用すれば、汎用性が高い元株を作製できる。一方で、HLAをKOしたES細胞を用いる超汎用性T細胞戦略も進めている。再生したCTLの状態で保存しておけば、患者のHLA型やがん抗原の種類に合わせた「即納可能な再生CTL製剤」として用いることができると考えている。1) Ichise, H., Nagano, S., Maeda, T., Miyazaki, M., Miyazaki, Y., Kojima, H., Yawata, N., Yawata, M., Tanaka, H., Saji, H., Masuda, K. and Kawamoto, H. : Stem Cell Reports, ■: 853-867, 2017.2) Vizcardo, R., Masuda, K., Yamada, D., Ikawa, T., Shimizu, K., Fujii, S., Koseki, H. and Kawamoto, H.: Cell Stem Cell, ■■:(1) 31-36, 2013.3) Maeda, T., Nagano, S., Ichise, H., Kataoka, K., Yamada, D., Ogawa, S., Koseki, H., Kitawaki, T., Kadowaki, N., Takaori-Kondo, A., Masuda, K. and Kawamoto, H.: Canser Res., ■■:(23), 6839-6850, 2016.3
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