第40回 阿蘇シンポジウム抄録集 2019
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■■■■■慶應義塾大学 医学部 微生物学免疫学教室7. 脳梗塞慢性期における制御性T細胞による神経制御脳血管障害(脳卒中)のなかでも、脳の血管が詰まるなど血流が減少することによって、酸素や栄養が不足して脳組織が壊死に至る脳梗塞は患者数が多いものの、有効な治療法は限られている。脳梗塞による組織破壊によって炎症が惹起され梗塞体積の増大や神経症状の悪化につながることが古くより指摘されて来た。我々はマウス脳梗塞モデルを用いて、脳梗塞発症後の炎症プロセスを明らかにしてきた。すなわち発症1日目には炎症性のマクロファージが梗塞部位に浸潤し、死細胞由来の物質を認識して炎症性サイトカインを放出する1)。その後3日目にγδT細胞が浸潤しIL−17を放出して神経細胞死が亢進する2)。それ以降はマクロファージが修復性に転換し炎症物質を除去、およそ1週間で炎症反応が収束する3)。しかし、それ以降の慢性期の炎症や免疫細胞の役割についてはほとんど解析されていなかった。しかし我々は梗塞2週間後の慢性期には大量の制御性T細胞(Treg)が浸潤することを見出した。脳Tregはアンフィレグリン(Areg)というサイトカインを分泌してアストロサイトの活性化を制御し、結果的に神経症状の回復を助けていることを見出した4)。このような組織に常在、ないし蓄積されるTregを組織Tregと呼び、組織の修復や恒常性維持に重要な役割を担っていることが知られるようになってきた5)。脳梗塞後の慢性期には一見炎症は顕著でないものの脳細胞と免疫細胞が相互作用して動的平衡状態にあることが示唆された。脳に集積したTregは脳Tregと呼ぶべき特徴的な性質を獲得してアストログリオーシスや神経症状を制御していることを見出した。例えば脳Tregはセロトニン受容体(Htr7)を発現しており、セロトニンによって増殖・活性化された4)。脳梗塞モデルマウスにセロトニンや脳内のセロトニンを増やす薬(抗うつ薬の一種)を投与したところ、脳Tregが増加し神経症状が改善された。今後、他の神経炎症においても脳Tregの意義の解明が進められるであろう。1) Shichita et al. Nature Med., ■■:(6), 911-917, 2012.2) Shichita et al. Nature Med., ■■:(8), 946-950, 2009.3) Shichita et al. Nature Med., ■■:(6), 723-732, 2017. 4) Ito et al. Nature, ■■■:(7738), 246-250, 2019.5) Ito et al. Int Immunol., ■■:(6), 361-369, 2019. 13

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