第40回 阿蘇シンポジウム抄録集 2019
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■■■■■京都大学 ウイルス・再生医科学研究所 臓器連関研究チーム6. がんが個体に悪影響を与える仕組: がん悪液質 (Cachexia) の解明がんは個体生理に様々な悪影響を与え、最終的には個体を死に至らしめる。がん悪液質はそのような悪影響の代表格であり、脂肪や筋肉、体重の減少を伴う重度の全身性代謝障害として定義されている1)。がん悪液質は、患者のQOLや治療感受性を低下させ、生命予後を悪化させる。がん悪液質を適切に制御することができれば、標準治療の有効性ならびに継続性を高める、という新しい道筋から、根治の難しいがんに対応できるようになるのではないかと考えている。現時点では、がん悪液質を強力に制御できる方法は存在しない。その主な理由は、がん悪液質のメカニズムに関する我々の理解が限定的であることに依る。実際、がん悪液質の病態は、がんが分泌する多様なサイトカインやホルモン、その影響を受ける複数の宿主臓器が関与しあう、明らかに複雑なものである。がん悪液質の病態の複雑性ゆえに、その症状を制御するための標的が確立されていないのが現状である。演者は、この状況を打破するためには、がん悪液質のメカニズムを、特に宿主側の立場に立って理解することが重要であると考えている。この目的を達成するために、マウス、ゼブラフィッシュを用いた担がん動物モデルと、マルチオミクス解析、インフォマティクス、タンパク質コード遺伝子とゲノミックエンハンサーの両方に対する遺伝学を組み合わせたシンプルな手法論に基づく研究を展開している2)-4)。その結果、乳がんや腸のがんが、肝臓のコレステロール代謝や概日リズムを撹乱することで、個体に悪影響を与えることを明らかにしてきた2)-3)。これらの研究を通して、がん悪液質における肝臓の重要性が明らかとなりつつある。本発表では、これまでのがん悪液質研究を俯瞰し、演者の研究を概説するとともに、がん悪液質研究のこれからについて議論したい。1) Fearon, K., Strasser, F., Anker, S.D., Bosaeus, I., Bruera, E., Fainsinger, R.L., Jatoi, A., Loprinzi, C., MacDonald, N., Mantovani, G., Davis, M., Muscaritoli, M., Ottery, F., Radbruch, L., Ravasco, P., Walsh, D., Wilcock, A., Kaasa, S. and Baracos, V.E.: Lancet Oncol., ■■:(5), 489-495, 2011.2) Hojo, H., Enya, S., Arai, M., Suzuki, Y., Nojiri, T., Kangawa, K., Koyama, S. and Kawaoka, S.: Oncotarget., ■:(21), 34128-34140, 2017.3) Enya, S., Kawakami, K., Suzuki, Y. and Kawaoka, S.: Dis. Model Mech., ■■: dmm032383, 2018.4) Hojo, M.A., Masuda, K., Hojo, K., Nagahata, K., Yasuda, K., Ohara, D., Takeuchi, Y., Hirota, K., Suzuki, Y., Kawamoto, H. and Kawaoka, S.: Nat. Commun., ■■: 2603, 2019.11

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